姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
***
午前9時。私の自宅近くの神社。
そんなに大きくはないが、この辺の地域に住んでいる人は初詣といえばみんなここにやってくる。
石造りの大きな鳥居の端で立っている私を、通る人通る人振り返って見ている。
「藤澤さんだ!」
「相変わらず可愛いなぁ。」
「お前、声かけてこいよ。」
私を一方的に知る人も老若男女問わずちらほら。
それもそのはず。忘れられそうだから定期的に言いたいが、私は自他共に認める美少女だ。
地域じゃちょっとした有名人。
しかも今日は振袖Ver.なもんだから、みんな見ずにはいられないのだ。
私の美貌に誘われて、ジャガイモ達がフラフラと近づいてきた時、近江涼介がやってきた。
「馬子にも衣装。」
「しばくぞ?♡」
開口一番それかい!
しかも後ろ振り返ってご覧よ、ものすごい数の女がついてきちゃってるよ、ハーメルンの笛吹きかよ。
せっかくのウキウキ気分が大分減衰したけど、この後の展開を思えば全く気にならない。
むしろお釣りがくるんじゃない?
「も〜、遅いよ、涼介くん!私なんて楽しみすぎて早く来ちゃったのにぃ♡」
辿々しい足取りで近江涼介に近づいて、当たり前のように腕を組む。
それと同時に近江涼介の背後を振り返れば、大勢の女たちが衝撃を受けたような顔をして固まった。
ほーらね♡
最高の反応ありがとうございまーす♡
「お前は毎度それやらなきゃ気が済まないわけ?」
「私のライフワークですから…って、ちょっと待ってー!」
ほくそ笑んでいる間に腕を振り解いていた近江涼介は、私をおいてさっさと本堂の方へと歩いて行ってしまった。
***
「人多っ」
参拝の行列に並びながら、なかなか列が進まないことに辟易とする。
ちなみにここに来る途中で近江涼介を確保したから、今は一緒に並んでいる。
「お参りする気持ちがあればいいわけだし、もうここで手を合わせればよくない?目の前まで行く意味ある?」
本堂までまだかなり距離があるのに手を合わせ始める私を、近江涼介は引いた目で見ている。
「並ぶ手間惜しむやつが初詣なんか誘うなよ。」
バッサリ。でも確かにそう。
「だって傑兄ちゃんが友達と行くって自慢してくるんだもん!私もそうしたかった。」
「めんどくさい奴。」
「そう言えば兄ちゃんも初詣ここって言ってたからそのうち会うかも。」
「……嫌な予感しかしない。」
前回会った時の傑兄ちゃんのシスコンぶりを思い出したのだろう。
近江涼介の目がちょっぴり遠くなった。
そうこうしている間についに私達の番が来る。
小銭をテキトーに賽銭箱に投げ、形式的に手を合わせて終わった。
こんなもんか、初詣。