姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.54 約束したから!
「あ、ひーちゃん待って。そこはこっちの公式使った方がスマートだし早いかも。」
10分前の大騒ぎが嘘のように、今はシャーペンを走らせる音だけが響いている。
ちなみに広瀬真とのバトルは勉強時間を盾にして勝った。そもそも広瀬真なんかに負けるわけがなかった。
「んー…?なんでそうなるの?どう言う解釈?」
「問題はこの長方形の最大面積を聞いてるわけだからね、このxを……」
「あ、なるほど!わかった気がする!」
私は苦手な理数系教科をフォローしてもらうべく、理数系教科に強い榛名聖に隣について指導してもらっている。
「そうそう、すご〜い。よくできましたぁ。」
言いながら私の髪をやんわりと撫でてくる。
明らかなお子ちゃま扱いにムカついたから、はたき落としてやった。
一方テーブルの向かい側では近江涼介・広瀬真ペアも勉強中。
私が先に榛名聖をとったから、近江涼介の家庭教師は余り物。
まあ学年1位キープしている余り物なら文句ないでしょ。
「基礎がちゃんとできてるから、あとはそれを使う応用力をつければ大丈夫そうだねぇ。
元々成績悪くないし、意外とちゃんとお勉強してたんだねぇ⭐︎」
なんか舐められてる気がしてム。
文句言ってやろうと口を開いたら、横から広瀬真の声が割り込んだ。
「そりゃしてるだろ。
じゃなきゃ青藍で20位以内なんて成績取れねー。」
無意識の言葉だったのだろうか。
広瀬真のぼんやりした目線はどんどん書き込まれていく近江涼介ノート。
そのくせ“当然だろ”とでも言いそうな真面目な顔をしている。
「………………。」
私と榛名聖の視線に気づくと、何故か照れ臭そうに眉を顰めてぶっきらぼうに腕を組んだ。
「おっ、お前の努力は認めてんだよ!
……動機は気持ち悪ぃけど!」
こっちを向く耳が赤い。
これは褒められたってことなの?
ぽわ、と室温が1度上がる。
ずっとノートにあった近江涼介の静かな視線がそっと私と広瀬真の方に向いた。
「まーくんてば、素直じゃないねぇ⭐︎」
榛名聖が楽しそうにニヤつくのを、広瀬真が不快そうに睨む。
――復讐のためにしてきたことを、誰かに認められるなんて思わなかった。
そわりとくすぐったい感覚。
広瀬真にではあるけど、褒められて悪い気はしなかった。