姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「は?全部できてんじゃん。」
現状を知るためにと、まず解かせた問題がずらりと並ぶノートを見て、広瀬真が怪訝そうに首を捻る。
近江涼介は何食わぬ顔で黙っていた。
広瀬真が提示したのは、基礎から高難度の応用までの幅広い問題。
それを“成績そこそこ”の近江涼介が、いとも簡単に全部解いてしまったのだから驚くのも無理はない。
「こんなできんのに、なんでいつもあんな半端な順位なんだよ?
フツーに上位狙えんだろ。」
これなら教える必要ないわ、といそいそと自分の勉強道具を取り出し始める広瀬真。近江涼介は反対にノート類を片付け始めた。
「近江涼介!」
だから、私は奴を呼び止める。
「絶対みんなで同じクラスになるんだからね!」
シャーペンを握りしめて、向かい側にいる近江涼介を真っ直ぐ見つめる。
その表情はやっぱり何を考えているのかわからない。
でも、その瞳は確かにじっと私を見ている。
「…………。」
けれど、近江涼介は答えない。
無感情な目が、怯える様に揺れた――気がした。
今、何を恐れたんだろう?
……わからないけど暗がりから引っ張り上げなくちゃ。
だから、私はムキになる。
「なるの絶対!なるったらなるったらなる!もう約束したから!」
「まぁまぁ涼ちゃん。ひーちゃんもこう言ってますし、ねぇ?」
私の肩をするりと抱いて、榛名聖が緩やかに笑う。
「これでなれなかったら余計にうるせーぞ、コイツ。
俺と聖と涼介でトップ3獲って、コイツだけ違うクラスにしよーぜ。」
仲間はずれ発言に戦いのゴングが鳴り響く。私と広瀬真の間に火花が飛び散った。
その傍で――
近江涼介は、そっとシャーペンを握り直す。
まるで、その約束を離さないみたいに。