姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
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「ふ、藤澤さん!待って…!」
ファッションビルを出ようとしたところで、鈍臭いあの子の声が聞こえた。
つい振り返ってしまったけど、相変わらず人通りに巻き込まれて揉みくちゃになっている。大丈夫か。
「ちょっと、なにやってんの……。」
うっかり駆け寄り、雑に腕を引いて通路の端に避難させる。
呆れ顔も隠さなかった。
「ごめんなさい、藤澤さん。あの、騙してて……。」
深く頭を下げる地味メガネ。
低い位置にある彼女のつむじを見つめて、また言葉にできないなんとも言えない気持ちになる。
「広瀬君達と近づくきっかけが欲しくて、美玖ちゃん達と一緒に藤澤さんを利用しようとしたの。
でも、藤澤さんが想像してたよりいい人だったから、だから……あの、ごめんなさい!」
お辞儀が更に深くなる。
必死で、今にも泣きそうな声。これだけは本心……だと思う。
――それは都合のいい解釈かしら。
後ろ髪引かれるのを振り払う様に、短く深呼吸をする。
それから、大仰に唇を吊り上げた。
「べっつに〜?知ってる♡
だからさりげなーくH2Oと遊んだって自慢したんだよ?」
「……え?」
女の嫉妬を煽るための可愛すぎるぶりっこスマイルとポーズに、地味メガネは頭を上げてぽかんとする。
「わかりやすく嫉妬してくれちゃって、あー面白かった♡
……じゃあね、暇潰しくらいにはなったよ♡」
置いてけぼりの小林円に構わず素早く背を向ける。
(最後まで鈍臭い子。)
心がちょっぴりチクリとして、苦笑いで誤魔化した。
自動ドアを抜けると、春風が体を抜けて気持ちがいい。
柔らかな自然光に目を細め、私は今度こそファッションビルを後にした。