姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.64 今日も、明日も


「なーにをしているのかな?近江君?」

駅前で女のブラックホールを生成する不届者を見つけて、仁王立ちして問いかける。

私の姿を捉えると、ソイツは人混みを軽くあしらって目の前へとやってきた。

近江涼介の隣に相応しい、というか近江涼介の方が恐れ多くなるレベルの私の登場に女共はすごすごと退散していく。

「私のこと付けてたの!?アンタまさかストーカー!?」

睨みながら顔を近づけても、近江涼介は少しも動じない。

「ただこの駅に用があっただけ。」

「嘘つけぇ!
そんな偶然あるわけないのよ、大体ねぇ……」

噛みついてやろうとした時。

近江涼介が突然私の頭を掻き乱す。

――そりゃもう、頭が揺れるくらいにガシガシと。


「何!何よ!」

こういう時、大体「別に」って返ってくるのに――
今日は何にも返ってこない。

ずっと無言で私の頭を撫で回し続けてる。

「もう何!何ー……」

ずっと、ずっと、終わらない。

なんか感情がバグってきて、胸がギューッと熱くなる。


歯を食いしばった顔を見られたくなくて俯く。

未だ続く撫で回しによって後ろ髪が落ちてきて完全に顔が隠れた。

(……悔しい。)

近江涼介の姿に、不躾に撫でてくる仕草に、
不覚にもホッとしてしまった。

喉まで込み上げてきた熱を唇をへの字に固く結んで押し込める。
目の前の胸にドン、と強く頭突きした。


「……聞いてほしいことがいっぱいある!」

私のぶっきらぼうな言葉に、近江涼介の手が止まる。

俯いているから反応がわからないけど、なんとなく受け止めてくれそうなのはわかるからまたホッとして。

「長くなるけど、ちゃんと聞いてよね!」

ふと上を見上げれば、私の頭に手を置いたままの近江涼介が笑ってる。

いつもの微かな笑みじゃない。

ちゃんと、優しく、笑ってた。


「……なんかムカつく!」

またも負けた気がして胸ぐらを掴む。
近江涼介は「ハイハイ」と呆れながら頷いて、駅の改札に向かって歩き出す。


たくさんたくさん話すんだ。
帰り道でも、明日、いつものあの場所でも。
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