姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.77 その手を引いて


電車を乗り継ぎ、街へ出た。


榛名聖は怒っている。
そして多分……。

感情の消えた不機嫌そうな横顔をじっと見つめる。
まつ毛に覆われた目に光はなく、真っ暗。


(私が明るい方に引っ張ってやらなくちゃ。)


ひっそりと拳を握りしめ、人混みの街中を抜けていく。

へそ曲がりの捻くれ者の心を、晴らして見せようじゃないの!


――ということで、近くのカラオケボックスに入ってみた。
とりあえず1時間だけの設定で。

「じゃ、はい!これ!」

榛名聖にデンモクを渡し、私はカゴに入っていたタンバリンを持つ。

榛名聖は文句言いたげにこっちを見る。
――けれど、タンバリンを構えて臨戦態勢の私を見ると、シラけながらも大人しく曲を入れだした。

「〜♪」

(ん?これ知ってる。)

しっとりとしたイントロが流れて、榛名聖が歌い出す。

すごく上手いわけではないけど、女共が喜びそうな色気混じりの吐息っぽい声。

ちょっと前に流行ってた恋人を想う愛を歌うバラードだ。

「ちょっとひーちゃん…タンバリンやめてくれない?
全然リズム合ってなくて調子狂うんだけど。」

「えっ!?」

3曲目あたりで耐えきれず表情を強張らせている榛名聖に言われてしまった。

どうりでなんか途中から微妙な顔しているなと思った。

「だめ?これ。カラオケといえばタンバリンって思ったんだけど!」

「切ないバラードで高速タンバリンはないでしょ。」

「えー!」

ちぇ、と拗ねたように唇を尖らせタンバリンをソファの空いているところに投げ捨てる。

榛名聖もうんざりしたようにため息をつき、マイクを置いた。
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