姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

PM 17:00


PM 17:00

夕暮れ時の寂れた図書館に、もう利用者はほぼいない。

外国語関連の図書コーナーで、私は隣に並んだ人物にまたも不機嫌な顔をして見せる。

「何の用デースカ?近江クーン。」

立ち読みしていた“初心者でもわかるマダガスカル語”の本を閉じ、相変わらずロボットみたいなソツのない横顔に問いかける。

「別に?英語の辞書借りにきただけ。」

「アハーン?ここはスピーキング、外国語の会話する本のコーナーデェース。辞書はアッチネ。」

顎を上げて伏し目がちに近江涼介を見て、煽る姿勢を作りながらピッと突き当たりの辞書コーナーを指差す。

終業のチャイムが鳴った瞬間さっさと消えたクセに、自分のタイミングで寄ってくるとは実に虫のいい奴だと、私は怒っているのだ。

「負けず嫌い。」

私の指摘にも煽りにも応じることはなく、マダガスカル語の本をじっと見つめて近江涼介はポツリと呟く。

その通りなのでぐうの音も出ず、バツの悪さに近江涼介の腕をトンと殴った。

「うるさいな。
いい?私があのバカに劣ることがあっていいはずないんだから!
サラマ!ミサウチャ!ヴェロマ!じゃあね!」

覚えたばかりのマダガスカル語を並べて一方的に話を切り上げ、貸し出しカウンターへと向かう。

ちなみに意味は「こんにちは」「ありがとう」「さようなら」だ。

つまり特に深い意味はない。ただ呪文を唱えただけ。

「忙しい奴。」

ポツンと外国語コーナーに残された近江涼介は、人知れず小さく笑った。
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