姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.93 夏風と手の温度
再び通りに戻ると、音を取り戻したような賑やかさにちょっとだけ面食らう。
花火が上がる時間が近づいているからか、来た時よりも人混みの密度が上がっていて、余所見をしたら逸れてしまいそうだ。
「近江涼介、やきそば屋見つけた……わっ、ぷ!」
屋台を探し歩いていると人混みの流れに乗り遅れてすれ違う人とぶつかりそうになる。
一緒に通りに出たはずの近江涼介との距離が少し開いたかと思うと、押し寄せる人の波にその間隔が更に開いていく。
上手く人の間を縫いながら追いつきたいのに、機動力のない浴衣ではそれも難しかった。
(まずい、逸れる…!)
どんどん離れていく後ろ姿を掴もうと手を伸ばすと、それより先にギュッと手を掴まれた。
「もみくちゃ。」
近江涼介が私の方に振り返って呟く。
その手は逸れないように、私の手をしっかりと握っている。
「……うるさいよ!あんたと違って私は人混みで頭出せないの!」
特に答えが返ってくることもなく、また前を向いて近江涼介は歩き出す。
その手はずっと繋いだまま。
ちょっと不思議な感覚だ。