姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「じゃあ向かいに座ってくれるだけでいいから。
ねっ、勤務命令!」

命令と聞いた高井さんが、呆れたようにため息をついて控えめに俺の向かいに座る。背筋をピンと伸ばして少しもだらけた様子を見せないのは、彼女の仕事に対するプライドなのだろう。

「…今日もお友達のお宅にお邪魔したのですか?」

静寂を破って、高井さんが静かに言った。
用事以外で話しかけてくることって今までなかったから、正直ちょっと驚いた。

「そうですよ〜。藤澤姫さんって女の子の友達なんですけど、その子のお兄さんに最近よくしてもらっていて。」

いつも夕飯の用意をしなくていいとしか連絡していないから、そう言えば知らなかったのか。
そんなことを思いつつ、レアなこの状況を終わらせたくなくて話題が膨らみそうなワードを散りばめた。

「…そうですか。」

(あれ、反応薄。)

女の子の名前出したし、まして家に入り浸ってるし、お兄さんの話とか、広げるとこたくさんあったでしょ。
手強いなと次の出方を考えて、とりあえず愛想よく微笑んでいると意外にも高井さんがまた話し出した。

「…私がここに来た頃は毎日タバコの匂いをさせて帰ってきていたのに、今日はカレーの匂いがしました。
きっと藤澤さんは良い友人なのでしょうね。」

(あ、笑った。)

微かに細くなった目と弛んだ口元に、知りもしない母性を感じて驚いた。

「はい。」

なんとなく胸がじわりとして、冷たくて静かで無機質な空間がほんの少し熱くなった気がする。

「俺の大切な友人です。」

高井さんにつられて無意識に微笑んだ俺を、高井さんは優しく見守っていた。
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