姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
通学途中の交通事故。即死。
「あ゙あ゙あ゙……ッ!涼……!涼ちゃん…っ!
いやぁああああッ!」
何も喋らなくなった我が子を見て、母親は狂った様に泣き叫んだ。
当然だ。突然愛しい我が子を奪われたのだから。
辛かっただろう、苦しかっただろう。
ショックだっただろう。
その悲しみは母体に大きな負担をかけた。
フッと意識を失い、破水。
すぐに母子共に危険な状態になり緊急手術が行われた。
――次に母親が目を覚ました時、産まれたての赤ん坊が傍にいた。
「抱きますか?」と問う看護師。
焦点がどこに合っているかもわからない呆然とした様子で、無言で両手を差し出す母親。
その手にずしりと小さな命の重さと温かさが伝わる。
10年前に感じた、あの愛しい幸せの感触だ。
母親の目から大粒の涙が溢れ出す。
それは悲しみの涙ではない。嬉し涙だ。
「……おかえり……ッ!
おかえりなさい……、“涼ちゃん”……!」
こうして兄の死はなかったことになり、俺は“涼”になった。