姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.109 “涼”


父親は母親の悲しみに寄り添った。


父親からしても最愛の息子を失った直後だ。

もしかしたら彼だってそう思い込みたかったのかもしれない。


周囲も産まれたばかりの次男と亡くなった長男を混同する母親に同情して、その思い込みに目を瞑った。


――産まれたての赤ん坊なら、別人として認識されていることを知る由もない。

世話をしてもらえないわけでも、愛情をもらえていないわけでもない。

むしろ溺愛と呼べるほどに可愛がられている。

それであれば赤ん坊の内は影響は少ないと考えたのだろう。

それに、いずれ母親の悲しみが癒えれば事実を受け止められる様になるだろうと。


当時、唯一俺を案じてくれたのは父方の祖父母だけだった。

父親が大真面目な顔で“涼”と言う名前で届を出そうとしたのを「それはこの子があまりに可哀想だ」と止めて、母親には秘密で“涼介”とさせたらしい。

こうして俺は、戸籍上は“近江涼介”になった。
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