姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「なんかボロボロじゃない?」
「うるさいよ♡人混みをかき分けた代償なの♡」
いろんな隙間に潜り込んで、崩れに崩れたポニーテールとはだけたエプロンを直す。
そして周囲の女子達に、“私は反応もらったけど?”と目線と愛想のいい笑顔で伝える。
ギャラリーが悔しそうに唇を噛むのを見て、スカッとした。
「お料理できる男の子ってかっこいいなぁ♡憧れちゃう♡」
「…………。」
私の上目遣いに、近江涼介は反応しない。今度は玉ねぎの皮を剥き始めた。
「……ム。」
あ、これあれだ。
ぶりっこモードのお前とは一切会話しねーよってやつ。
まるで私やギャラリーなんて存在しないとばかりに作業に没頭する近江涼介に、ムッとする。
だけど無視し続けられる方が嫌なので、溜め息を吐いて小首を傾げた可愛いぶりっこポーズを解除した。
「料理できるなんていがーい。皮剥きすれば食べるとこなくなるまでやり続ける嘘みたいな料理音痴かと思ってた。」
減っていく玉ねぎの山から私も1つ手にすると、素早く皮を剥いて“私の方ができるけどね”と態度でアピールする。
声のトーンがちょっと下がった私の言葉に反応して、近江涼介はやっとこっちをチラッと見た。
「………まぁ、家でやってたから。手伝いみたいなやつ。」
「ふぅん?」
それも意外。
こんな馬鹿みたいにモテるイケメン(私が思っているわけではない)って、家も馬鹿みたいな大金持ちで、一般人がびっくりするほど常識がないとかありそうなのに。
(ロボットみたいって思ってたけど、案外普通の人間だったのね。)
たまに、たまーに笑う近江涼介は人間に“見えて”いた。
手荒れひとつない骨ばった大きな手が、それに似合わず丁寧に玉ねぎの皮を摘んで剥がしている。
玉ねぎに集中しているせいで節目がちになった目はまつ毛に覆われて、人間らしい輝きが感じられない。
口元は相変わらずアンダーバーのよう。
切った野菜の青臭さが停滞している調理場に、緑の匂いがする風が優しく吹き込んで淀んだ空気を押し流す。
近江涼介の漆黒の髪が、さらっと揺れた。
――見てくれはまさにロボットだ。
それでも、今はちゃんと奴が人間になった気がした。