姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

AM11:45

AM 11:45

――結局何も聞けなかった。

移動教室があったり、姫が手洗いで離席したりして授業間の10分休憩ではまともに会話ができなかった。

最後の授業は体育。内容はバスケで、男女別の授業。

だから姫はネットで半分に仕切られた体育館の向こう側にいる。

3on3の待ち時間に体育館の壁に凭れ、女子側の試合に参加する姫の姿を眺める。
ボールが弾む音やクラスメイトが走り回る音が、ぼんやりと聞こえていた。

あっちは5on5の普通の試合形式でやっているようで、姫もその中に参加している。

懸命に走っている……ように見せて敵陣ゴールに近いポジションをキープして適当にウロチョロしているだけ。
それなのにボールが転がってくればすかさずキャッチしてシュートを決めるいいとこ取りだ。


(うわ……セッコ……。)

姫への恋心を自覚はしているが、こういうところを見ると毎回何故こんな奴が好きなのかと自問自答してしまう。
口悪ぃし、ナルシストだし、性格もキツいし。

復讐はもういいと言った割に、姫は敵チームの奴らに得意げな笑顔を見せている。
うんざりしながら見ていると、すぐそばにいた男達の会話が聞こえてきた。

「見たか?今の!藤澤さんすごかったなぁ。」
「見た見た。むしろ藤澤さんしか見てないし。」
「ホント可愛いよなぁ。おまけにかなりスタイルもいいんだよな。
細いのに意外と胸あるんだよな。さっき走ってた時――……」

ゲスな話題で盛り上がるソイツらを睨みつけると、殺気に気づいてすぐに会話を辞める。


(方々に見境なく色仕掛けしてっから変な目で見られんだよ、アホ!)


姫は変な目で見られていることに気付いていないのか、はたまたわかっていて気にしていないのか。

どちらも考え得るが、とにかく脇が甘いアイツに苛ついて舌打ちする。
さっきの男共は自分にされたと勘違いしてサーッと青ざめていた。
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