姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
おまけ:姫と聖のおつかい
帰宅ラッシュ間近のスーパーは、たくさんの主婦で賑わっている。
所帯じみたスーパーが全く似合わず浮まくりのチャラい男・榛名聖は、庶民マダムの視線を独占して優雅に売り場を歩いていた。
「アンタがいると人を避けなくていいから楽でいいわね。早く買い物済ませられそう。」
通路を歩けば花道ができて、陳列棚に近づけばさっと人が退く。
私は類い稀なる美少女ではあるけど、女であるマダム達にこの美しさは通用しない。
だからここは榛名聖に勝ちを譲ってあげようじゃないの。
「人を虫除けスプレーみたいに言わないでほしいなぁ。
あ、ひーちゃん。キャベツ安いよ〜。」
「本当だ、ラッキー。
帰ったら千切り対決しよ!どっちがより細く刻めるか。」
「えぇ、俺千切りなんてやったことないよ〜?」
「それなら私の圧勝ね!」
「……どうあっても勝負はするんだねぇ。」
「血気盛んだなぁ」と苦笑いされたのも気にせず、榛名聖が持っている買い物カゴにキャベツを1玉入れた。
各コーナーを隅々回って、渉兄ちゃんから送られてきた買い物メモを頼りに指定のものを次々とカゴに収めていく。
2人並んで調味料コーナーで目当てのメーカーの味噌を探していると、暇を持て余した榛名聖がふざけだす。
「新婚さんみたいだねぇ。」
「全然。てか、それ前も聞いた気がする。
捻りなし。0点。」
「え〜、厳しいなぁ。」
目当ての味噌のラベル探しに集中する私の横で、ころころと笑っている榛名聖。
その心底楽しそうでご機嫌な様子を横目に見て、ちょっと不思議な気持ちになる。
「榛名聖はよく笑う様になったよね。」
「俺、元々よく笑う方だったと思うけど〜?」
「そうじゃなくて。
“ちゃんと笑うようになったよね”ってこと!」
また変な事を言っている、と小馬鹿にした態度にキッと睨みを効かせる。
すると、榛名聖は面食らった様な顔をする。
「全く……
アンタが出会った時から常にへらへらしてたのはこっちもわかってんのよ。」
ようやく見つけた味噌を手に取とりブツブツ文句を言っている私を見つめ、榛名聖は嬉しそうに柔らかく笑う。
「――だとしたら、ひーちゃんのおかげだよ。」
心のこもった呟きは、賑やかなBGMの中に溶けて紛れた。