姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
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「思ったよりいっぱい買ったねぇ。」
「渉兄ちゃんに明日以降の買い物も頼まれたもんね。」
日も傾いてきた帰り道を、榛名聖と大きな買い物袋を1つずつ持って並んで歩く。
今夜のメニューは生姜焼き。
引くほど食べる傑兄ちゃんが今日はいないから、その分荷物は少し減ってラッキーだった。
「とりあえず帰ったらご飯炊いて、下拵えしてー……
宿題してる間に渉兄ちゃんが帰ってくるといいけど。」
「大学生も大変だよねぇ、論文書いたりなんだかんだ忙しそうで。」
マンションのエントランスを抜けて、エレベーターに乗り込む。
我が家のある階層である4のボタンを迷いなく押す榛名聖にももう慣れた。
エレベーターを降りると、風が吹き抜ける廊下を歩く。
角を曲がって我が家までの直線距離に差し掛かった時、家の前に誰か立っているのに気付いた。
伏した横顔から顔は伺えないが、大人の女性。
深い赤のロングコートに緩いウェーブがかった長い黒髪がよく映えて、高いヒールも綺麗に履きこなしている。
ハイブランドの小さなショルダーバッグも“相応しい”と思わせる出立だ。
……誰だろう?
警戒しながら目の前まで近づく。
不意にその女が振り返り私を見つけて、目を輝かせた。
「姫……よね?
うわぁ、大きくなってる――……。」
その顔立ちは、目尻の皺に年齢を感じるが私と傑兄ちゃんを思わせる。
もうほとんど記憶には残っていないが、幾度となく数少ない家族写真で見ていたあの顔だ。
「お母さん……!?」
驚いて固まる私に、恐らく母であろう女は明るく微笑みかけてくる。
足が、床に貼りついたみたいに動かない。
榛名聖だけが冷静に事の成り行きを見守っていた。