姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.183 嘘をついている
凍った空気をぶち壊すように、玄関のドアが乱暴に開け閉めされた音がした。
間髪入れずにドタドタと廊下を走る音が近づいてきて、
バン!と勢いよくドアが開く。
「傑兄ちゃん?」
飲み会で遅くなるはずの傑兄ちゃんが、ものすごい剣幕でリビングに入ってきた。
――どこから走ってきたのだろうか。
ゼェゼェと息を切らしながら、優雅に座っている母親の姿を見つけると血相を変えて睨みつけた。
「テッメェ……何でここにいるんだ!」
「あらぁ、傑ね?
全く似てない兄弟だったから、大きくなっても見分けるのが簡単で助かるわぁ。」
未だかつてないくらい怖い顔をしている傑兄ちゃんを、歯牙にもかけず朗らかに笑っている。
それが余計に怒りを煽って、傑兄ちゃんは強く拳を握りしめた。
「兄ちゃん……。
お母さんが今、海外赴任なんてしてないって言ってたんだけど……。」
未だ母親の衝撃発言に意識を奪われたままの私は、それを言った人物を指さして縋る様に傑兄ちゃんを見る。
その顔が余程不安そうだったのか、少しだけ傑兄ちゃんの態度から怒りが消えて冷静さが戻ってきた。
「……もうすぐ兄貴も帰ってくるから、そしたら話そう。姫。」
――そう言って私のことを見つめ返す傑兄ちゃんは、珍しく弱気な表情だった。