姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
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ずしんと落ち込んだ雰囲気が漂う中、しばらくして再び玄関のドアが開閉された音がする。
渉兄ちゃんも焦った様子でリビングに入ってきて、異様な空気に険しい表情を浮かべながら、真っ先に私の元へとやってきた。
「聖くん、連絡ありがとうね。
ごめんね、家族のゴタゴタに巻き込んで。」
私の肩を抱きながら、ずっと私の隣にいてくれた榛名聖に申し訳なさそうな顔をする。
渉兄ちゃんの眼中に、はしゃぐ母親の姿はない。
「いえいえ〜。
海外帰りの筈なのに荷物が小さいショルダーバッグ1個っていうのが引っ掛かったので一応。
お役に立ててよかったです。」
張り詰めた空気を感じさせない緩い笑顔と口調。
渉兄ちゃんも榛名聖に向かって申し訳なさそうに微笑んだ。
「本当にありがとう。
……それで、ここからは見苦しいところを見せちゃうと思うから、悪いんだけど今日は……」
「ここにいてほしい。」
榛名聖を帰そうとしたのを察知して、渉兄ちゃんの言葉を遮る。
“わかっていた”と苦笑していた榛名聖も、申し訳なさを全面に出している渉兄ちゃんも、驚いて私の方を見た。
「いて、榛名聖。お願い。」
心許なさに縋る様に榛名聖の目を見つめる。
どうしてもここにいてほしい。
だって傑兄ちゃんも渉兄ちゃんも、私に何かを隠している。
それを知って万が一私が冷静じゃなくなった時、榛名聖なら私をちゃんと止めてくれると思うから。
榛名聖は一瞬だけ俯いて、くすぐったそうに小さく笑う。
そして顔を上げると、渉兄ちゃんに申し訳なさそうにしながらダイニングテーブルに背を向けたテレビ前のソファの方を指さした。
「……そこのソファに黙って座っているので、いてもいいですか?」
私の頑固さをよく知っている渉兄ちゃんは、諦めたようにため息をついて頷いた。