姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.191 衝突


姫がいなくなった空き教室は、静まり返って張り詰めている。

涼介は走り去る姫の後ろ姿を目で追うことすらしない。
すぐに読書に戻ったので、真は堪らず口を開いた。

「追わなくていいのかよ?」

「アイツの用事に着いて行く必要ないだろ。」

自分の問いにとぼけた解答をする涼介に、カッとなる。

「あんなの嘘に決まってんだろ!
……つか、わかってんだろ涼介なら!」

涼介の表情は変わらない。
でも、本から視線が真へと動いたから、思うところはあるのだろう。

空気をヒリつかせる2人の間に座る聖は、唇に薄く微笑みを浮かべながら事の成り行きを静観している。

“ひーちゃんはちぐはぐな心と理性の間で苦しむことになる”

そう真に教えて蒔いた種が芽吹いた今、
涼介の固い意志が動くも良し、真が行動を起こすも良しと考えているからだ。



「……アイツは……、
姫は、ずっと友達でいることを望んでる。」

「!」

真の目を貫くように真っ直ぐ見つめてそう言った涼介に、意志の揺らぎはほんの少しも感じられない。

姫との約束を貫くだけ。

そんな気持ちの表れだ。

沈黙の中で、風が窓を叩く音がする。
涼介の顔がほんの少しだけ曇った。


「今のアイツの望みは変わってると思うけど。」

そう言った真が先に目を逸らした。

姫の望みを固く守ろうとする涼介の意志の強さに負けた気がして。

それから、“今の姫の望み”を認めるのが辛いから。

「変わってない。
少し環境が変わって、今はただ戸惑っているだけだ。」

「そんなわけ……!」

「ない」と言いかけた言葉が喉の奥に引っ込んだ。


クリスマスイブのあの日、カップルに間違われた後の姫は明らかに落ち込んでいた。


姫は俺達との“友達関係”を何より大切にしている。


友情より恋愛感情の方を優先すべきなんて事はない。

姫が今苦しんでいるからと言って、望むものが恋の成就とは限らない。
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