姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「……姫?」
近江涼介に名前を呼ばれて我に返る。
俯いていた顔を勢いよく上げると、近江涼介の涼やかで吸い込まれそうな目と視線がぶつかってドクンと心臓が大きく跳ねた。
“仲良くなったみたいでよかったね!”
“趣味が合う友達ができてよかったね!”
咄嗟に頭の中で言葉を考えてみたけど、言葉尻に何故か棘がある気がして掻き消す。
“アンタは私の友達でしょ?”
――あ、ダメだ。こんなの1番言っちゃいけない。
「な、なんでもない!あっ、そうだ!
私ってば次の授業当たるのに予習するの忘れてた!
そんなわけで、先に教室戻るから!」
目を泳がせながら無駄な仕草多めでドタバタと立ち上り、空き教室を後にする。
小走りで誰もいない廊下を駆け抜けて、旧校舎の外に出た。
(なんかちょっと、おかしな態度になってしまってたかもしれない。)
でも、あそこにいたらきっと、
感情に任せてもっとおかしなことを言ってしまう。
…………感情に任せて?
酸欠の肺が掠れて、喉から鉄の味がする。
私は自分の気持ちに名前をつけるのが下手くそだ。
だから、この苦しくて後ろ暗い感情に上手く名前がつけられない。
――こう言う時はいつも、近江涼介が助けてくれるのに。
だけど今は頼れない状況も、頼るのが当たり前みたいになっている自分にもガッカリする。
だからこの気持ちは、どうにかして忘れてしまうのがきっと正解なのだ。
「……ちゃんと友達でいたいだけなのに、上手くいかないなぁ。」
ずっと友達。何があっても味方でいる。
そんな当たり前のことも上手くできないため息が、薄暗い雑木林の中に消えていった。