姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

それなら少しでもいい方に変えていきたい、その思いはずっと変わらない。
けれど、持っている大切な“今”を手放すのはちょっと怖い。


(ここまで突き進んで来て、今更何を怖がるかって感じではあるんだけどー……!!)


伏してサラサラの黒髪が隠す、近江涼介の顔を複雑な気持ちでジッと見つめる。

自分の恋心はかなり落ち着いたとは思うけど、やっぱり少しドキドキするからその涼しい態度が憎らしい。

緩く首を横に振り、煩悩を振り払う。

――自分なりのケジメはつけた。
そしたらいよいよ、この気持ちに決着をつけなくちゃ。

もうすぐやってくる、高校最後の一年が始まる、その前に。

***

放課後を知らせるチャイムが鳴る。
私はそれと同時に立ち上がり、勢いよく後ろを振り返って近江涼介目掛けて突き進む。

「近江涼介、ちょっと話が――……!」

近江涼介は私の声はおろか姿すら認識していないみたいな様子で、私がそこに辿り着く前に立ち上がって帰っていってしまう。
慌てて教室を出たのにその姿はもう見えない。忍者か。

(ここ数日、それがずっと続いている……!)

今日も捕まえられなかった悔しさにグッと拳を握りしめる。

今度こそ私、避けられてる!?
またも同じようなことに悩まされるとは。

でも今度は勘違いでも先入観でもない気がする。

最近は1対1で話す隙を与えないようにされてる気がするし。

“答え”が決まっているから、気まずくなりたくなくてそうしているのかなぁ。

でも、あの時……

「“わかった”って言ったじゃない。」

振られることよりも、避けられていることの方が悲しい。
もう空席になっている近江涼介の席の側で拗ねたように立ち尽くす。

それを後ろから広瀬真と榛名聖がずっと見ていて、“見ていられない”とお互いに顔を見合わせた。

――――……

「涼ちゃん、ちょーっといいかなぁ?」

翌日の昼休み、聖は貼り付けたような笑顔で席に座ったままの涼介のことを見下ろした。

ちなみに姫はここにはいない。聖が天音を使って昼休みはそっちと過ごすように仕向けたのだ。

「今日は姫いないから。話そうぜ。」

聖の隣にいた真も毅然とした険しい顔で同じく涼介を見下ろしている。

「……わかった。」

自分を威圧する2人を見上げてから、涼介は諦めたように下を向いて溜め息をついた。


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