姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
――言った瞬間、手首を掴まれて強く引き寄せられた。
いつかと違って今度は体ごと持っていかれて、近江涼介の胸に飛び込んだみたいになって強く強く抱きしめられた。
それを認識するのに数秒かかった。
認識してもわけがわからなくて、
――でも抱き締められているのはわかるから、体温が上昇してパニックになった。
「ちょっと、えっ。なにこれ!?え!?」
空気ぶち壊しで騒いでも、腕が解かれることはない。
自分のじゃない石鹸の香りに脳内を侵食されて、頭がおかしくなりそう。
理性を保つために近江涼介の胸の中で強く目を瞑った。
「――いつか失うくらいなら、ずっと友達のままでいいと思ってた。」
耳元で絞り出した様な声がした。
それがあまりにも心細そうで、ぎこちなくその背中にそっと手を添えると、近江涼介の体が僅かにびくりと揺れる。
「でも、ちゃんと姫と向き合ったら嘘がつけなくなることもわかってた。
だから避けた。ごめん。」
今私は、近江涼介の本音に、心に触れている。
近江涼介の心臓の音がずっと聞こえる。
ドクンドクンと緊張や不安を伝える、人間らしい音がする。
いつも飄々としていて、心の声が小さくて、自分の好き嫌いも探り探りの近江涼介が、私を失うことを恐れていた。
それはつまり、そのくらいの強い感情を持ってくれていたということだ。
ゆっくりと近江涼介の胸を押し返して、緩まった腕の中で近江涼介のことを見上げる。
声色の通りにその顔は不安に翳っていて、今にも崩れ落ちそうで、だから私は微笑んで見せた。
「――わ……私のこと、好き?」
近江涼介の目が僅かに見開く。
私も緊張と不安にドキドキしているけど、なんとか笑顔を保っている。
「答えてよ。近江涼介。」
丸くなった近江涼介の目が穏やかに細くなる。
甘える様に私に額を寄せて、感情を隠さずに答えた。
「――好きだ。
この先もずっと、何があっても。」
瞬間、溢れ出る愛しさに胸がいっぱいになった。
緊張とか恥ずかしいとか、そんな感情は一切吹き飛んで触れ合う体温に溶ける様な感覚を覚えて満たされる。
まつ毛が触れ合うほど間近に絡む視線は甘くて、囚われたらもう逸らせない。
誰もいない公園に重なる影は長く長く伸びていて、私達は寄り添ったまま心の底から笑い合った。