誰にも言うなよ ~結婚式の後始末~
 


 ほたるはその日、課長について会議に行くことになった。

 いつも行っている先輩が風邪で休んでしまったからだ。

『ごめんごめん。
 でも、ほんと、たいしてやることないから。

 賑やかしみたいなもんよ』

 先輩はそう言っていた。

 この会社のロビーに入るのははじめてではない。

 自分の会社よりちょっと広く。

 ちょっとだけ新しい建物。

 なのに、妙に落ち着かない気持ちになるのは、ここが明巳さんのいる会社だからだろうか、とほたるは思う。

 まあ、普通に会社を訪ねていって、社長と出会う機会なんてないよね、と思っていたのだが、受付を済ませてすぐに出会ってしまった。

 いや、明巳ではなく若田にだ。

「あっ、ほたる様じゃないですかっ」

 様はやめてください……、
とほたるは思っていたが、若田はこれでも、ぐっとこらえた方だった。

 本当は、彼は、奥様と呼ぼうと思っていたのだ。

 幸い、課長は知り合いに出会ったらしく、離れた場所で話していた。
< 98 / 277 >

この作品をシェア

pagetop