桜の記憶

第32話　再会の春

春の光が柔らかく差し込む京都駅のホームに、美咲は立っていた。胸の奥が少し痛むような緊張感と、再会への期待が入り混じっている。

やがて、新幹線から降りてきた女性の姿が目に入った。恵子だった。以前より少し白髪が増えたが、その瞳の温かさは変わらない。

「美咲…」

恵子が小さく呼びかけると、美咲は堪えきれずに駆け寄った。

「お母さん！」

二人は人目もはばからず抱きしめ合った。恵子の腕の温もりに包まれ、美咲は幼い頃から守られてきた日々を思い出す。記憶を失い、すべてが見知らぬ世界だったときも、恵子はそっと支えてくれた。

「会えてよかった…ずっと心配してたのよ」

「私も…いろんなことがあって。でも、今は大丈夫」

ホームを離れ、二人は桜月庵へ向かう。店に入ると、椿大女将と梢若女将、佐々木、それに塔子が出迎えた。椿は恵子を見つめ、穏やかな笑みを浮かべる。

「あなたが美咲を守ってくれた方なのね。ありがとう」

恵子は少し照れながらも深く頭を下げた。そこには、血縁を超えた確かな絆があった。

その日の夜、美咲は恵子を自室に招き、春香の手帳とそこから見つかった手紙を手渡した。恵子は静かにページをめくり、やがて目頭を押さえる。

「春香さん…こんな想いで美咲を…」

美咲はそっと恵子の手を握った。二人の間に言葉はいらなかった。ただ、温もりがすべてを語っていた。

その光景を、店の奥から悠人が静かに見守っていた。彼もまた、この再会が新しい家族の形を築く始まりになることを感じていた。
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