秘めた恋は、焔よりも深く。
ピンポーン。

インターホンの音に、心臓が大きく跳ねる。
慌てて立ち上がり、モニターに視線を向けると、そこにはスーツ姿の龍之介が映っていた。
一日の仕事を終えて少し疲れをにじませながらも、その目はまっすぐこちらを見つめている。

扉を開けた瞬間、秋の夜風とともに、彼の背の高い影が差し込んだ。

「悪い、遅くなった」
低い声が耳に届き、美咲の胸はまた高鳴る。

「……お疲れさまでした」
柔らかな笑みを浮かべて迎えた次の瞬間、

龍之介の大きな手がそっと伸び、美咲のハーフアップの髪に触れる。
金のクリップの下からこぼれる髪を指に絡め、名残惜しそうに撫でたあと、彼はためらいなくその腕で抱き寄せた。
強い抱擁だった。
逃がす気などさらさらない、と言わんばかりに、美咲の身体をしっかりと胸に閉じ込める。

「……会いたかった」
低く熱を帯びた声が耳元で震える。

(……こんなにも、強く)
胸に押し寄せる鼓動と温もりに、美咲は息を詰め、返す言葉を見つけられなかった。
ただ、抗えない力強さに身を預けるしかなかった。

そのとき。

ぐうぅぅ……。

沈黙を破る、間の抜けた音。
美咲のお腹が容赦なく自己主張をした。

「っ……!」
美咲の顔が一気に真っ赤になる。

一瞬の静寂のあと…

「ははっ!」
龍之介が思わず吹き出し、豪快に笑い出した。
「……タイミング、最高だな。お前らしい」

「な、なによもう……!」
抗議の言葉を口にしながらも、美咲の頬はますます熱くなる。
けれど、彼の笑い声に胸の奥の緊張がふっと溶けていくのを感じていた。

龍之介は肩を震わせながら、必死に笑いをかみ殺した。
「……悪い、待たせたのは俺だし」
それでも口元がどうしても緩んでしまい、目尻に笑いがにじむ。

「そんなに笑わなくたって……」
美咲はぷうーっと頬を膨らませ、視線を逸らした。

その様子がまたたまらなく愛しくて、龍之介の胸の奥に温かな笑いがこみあげる。
「……かわいい」
思わず漏れた言葉に、美咲の頬はさらに赤く染まった。

背広の上着を脱いだ龍之介は、手際よくネクタイも外し、ふうとひと息ついた。
龍之介が椅子に腰を下ろし、美咲も向かいに座る。
テーブルの中央では鍋がぐつぐつと音を立て、湯気の向こうで白菜やきのこ、豚肉が踊っている。

「……うまそうだな」
龍之介の低い声に、美咲は胸の奥が小さく震えた。
「よかった。たくさん食べてくださいね」
そう微笑むと、彼の目元も柔らかくほどけていった。

「飲みますか?」
美咲が遠慮がちに問いかけると、龍之介は首を横に振った。
「今夜はやめとく。……やっぱり鍋はいいな」

「そうですね」
美咲は微笑みながら頷いた。
「相変わらず、お忙しいんでしょう?」

「ああ」
龍之介は白菜を取り皿に移しながら、低く応える。
「俺がキャンプのイベントで不在にする間の仕事を、ほかの秘書たちに割り振ってるんだ」

「美咲のほうは大丈夫か?」

「はい。チームでカバーしてもらっています」

「そうか。頼もしい連中だな」
龍之介が満足そうに笑みを浮かべる。

「はい。信頼しています」
美咲の言葉は真っ直ぐで、その響きに彼の目元がさらに柔らかくなった。



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