秘めた恋は、焔よりも深く。
龍之介は無言のまま、美咲を庇うようにして歩き出した。
フロントロビーを抜け、エレベーターの前を通り過ぎる。彼の背中から張り詰めた気配が伝わり、美咲は足早に隣をついていく。
地下の駐車場に降りると、ひんやりとした空気が二人を包んだ。
龍之介は一言も発さず、美咲を車へと導き、助手席のドアを開ける。
「……ありがとう」美咲は小さく礼を言い、シートベルトを締める。
運転席に収まった龍之介は、無表情のままエンジンをかけた。
地下駐車場に低く響くエンジン音。
出口へ向かう車内も沈黙。夜の街を抜け、自宅マンションへと着くまで、一度も会話はなかった。
エントランスに車を停め、美咲を先に降ろすと、龍之介はその背に続く。
部屋に入るまでの間、重い沈黙は崩れることなく、二人を包み続けていた。
玄関の鍵を閉める音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、龍之介は堪えていたものが決壊するように、美咲を壁際に押しやる。
「……どういうつもりだ」
低く押し殺した声。だが、瞳の奥には剥き出しの怒りと焦燥が揺れていた。
「松田専務と……あの状況で仲良く話しだと?」
「ちがっ……」
言い訳をしようとした美咲の声を遮るように、龍之介の掌が壁を叩く。
「既読もつけず、どこで何をしてるかも知らせず……俺を待たせておいて。
ようやく会えたと思えば、あんな場所で他の男と笑ってる姿を見せられるなんて……」
「どうして俺に黙っていた! エレベーターに閉じ込められたとき、なぜすぐに知らせなかった!」
「……シンガポールにいると思っていたのよ」
美咲は声を震わせながらも、まっすぐに龍之介を見つめた。
「あなたが私の立場だったら、連絡した? それとも……心配させまいと、事後報告にした?」
美咲の声も思わず強まる。
「おまえがあの男と二人きりでいた、それが許せないんだ!」
龍之介の瞳が荒々しい激情に揺れた。
「偶然よ! 松田専務がそこにいたのも、私が望んだわけじゃない!」
美咲は必死に言い返す。
「それに……私たちだって、望んで閉じ込められたわけじゃないわ」
その一言に、龍之介の目が一瞬鋭く光る。
「……私たち、だと?」
低く唸るような声。
「ち、違うのよ。そういう意味じゃなくて…」
慌てて言葉を継ごうとした美咲の声を、龍之介の怒りに似た熱が飲み込んだ。
「おまえが“私たち”なんて言うのを聞くだけで、俺は気が狂いそうなんだ!」
震えるように吐き出される言葉。
それは怒りというより、嫉妬と恐怖が入り混じった切実な感情だった。
言葉と同時に、美咲の手首を掴み、ぐっと引き寄せる。
「痛いっ!」
思わず声が漏れる。
「言葉の綾よ! そんな揚げ足を取らなくてもいいじゃない!」
美咲の頬が熱を帯び、瞳が怒りに潤む。
美咲は壁に背を預けたまま、ただ彼を見上げた。
「……明日の帰国だと思っていたから」
その無防備な言葉に、龍之介の胸の奥で何かが揺らぐ。
彼女は嘘をついていない。ただ、本当に知らなかったのだ。
「……だから、知らせておけばよかったってわけか」
唇を噛みながら吐き出す。
だが、怒りは完全には収まらない。
フロントロビーを抜け、エレベーターの前を通り過ぎる。彼の背中から張り詰めた気配が伝わり、美咲は足早に隣をついていく。
地下の駐車場に降りると、ひんやりとした空気が二人を包んだ。
龍之介は一言も発さず、美咲を車へと導き、助手席のドアを開ける。
「……ありがとう」美咲は小さく礼を言い、シートベルトを締める。
運転席に収まった龍之介は、無表情のままエンジンをかけた。
地下駐車場に低く響くエンジン音。
出口へ向かう車内も沈黙。夜の街を抜け、自宅マンションへと着くまで、一度も会話はなかった。
エントランスに車を停め、美咲を先に降ろすと、龍之介はその背に続く。
部屋に入るまでの間、重い沈黙は崩れることなく、二人を包み続けていた。
玄関の鍵を閉める音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、龍之介は堪えていたものが決壊するように、美咲を壁際に押しやる。
「……どういうつもりだ」
低く押し殺した声。だが、瞳の奥には剥き出しの怒りと焦燥が揺れていた。
「松田専務と……あの状況で仲良く話しだと?」
「ちがっ……」
言い訳をしようとした美咲の声を遮るように、龍之介の掌が壁を叩く。
「既読もつけず、どこで何をしてるかも知らせず……俺を待たせておいて。
ようやく会えたと思えば、あんな場所で他の男と笑ってる姿を見せられるなんて……」
「どうして俺に黙っていた! エレベーターに閉じ込められたとき、なぜすぐに知らせなかった!」
「……シンガポールにいると思っていたのよ」
美咲は声を震わせながらも、まっすぐに龍之介を見つめた。
「あなたが私の立場だったら、連絡した? それとも……心配させまいと、事後報告にした?」
美咲の声も思わず強まる。
「おまえがあの男と二人きりでいた、それが許せないんだ!」
龍之介の瞳が荒々しい激情に揺れた。
「偶然よ! 松田専務がそこにいたのも、私が望んだわけじゃない!」
美咲は必死に言い返す。
「それに……私たちだって、望んで閉じ込められたわけじゃないわ」
その一言に、龍之介の目が一瞬鋭く光る。
「……私たち、だと?」
低く唸るような声。
「ち、違うのよ。そういう意味じゃなくて…」
慌てて言葉を継ごうとした美咲の声を、龍之介の怒りに似た熱が飲み込んだ。
「おまえが“私たち”なんて言うのを聞くだけで、俺は気が狂いそうなんだ!」
震えるように吐き出される言葉。
それは怒りというより、嫉妬と恐怖が入り混じった切実な感情だった。
言葉と同時に、美咲の手首を掴み、ぐっと引き寄せる。
「痛いっ!」
思わず声が漏れる。
「言葉の綾よ! そんな揚げ足を取らなくてもいいじゃない!」
美咲の頬が熱を帯び、瞳が怒りに潤む。
美咲は壁に背を預けたまま、ただ彼を見上げた。
「……明日の帰国だと思っていたから」
その無防備な言葉に、龍之介の胸の奥で何かが揺らぐ。
彼女は嘘をついていない。ただ、本当に知らなかったのだ。
「……だから、知らせておけばよかったってわけか」
唇を噛みながら吐き出す。
だが、怒りは完全には収まらない。