秘めた恋は、焔よりも深く。
美咲はぐっと彼の手を振り払い、リビングへと歩みを速めた。
フローリングにかすかな足音が響く。

すぐに背後から荒い足音が追いかけてきて、龍之介の低い声が鋭く突き刺さる。
「美咲!」

「何をしていた⁈ 二人きりで、あの狭い空間で……何をしていた!」

振り返った先にあったのは、嫉妬に狂った男の怖ろしい顔。
だが、美咲も怯まずに言い切った。

「話をしていただけよ!」

「何の話をしていたんだ?」
龍之介の詰め寄る声は、低く荒々しい。

閉じ込められていた時の緊張感から、美咲はすでに体も心も疲れていた。
そこへ追い打ちをかけるような嫉妬の詰問に、堪らずイラ立ちがこみ上げる。

「……昔話とか、デザートの話とか。たわいもない話よ!」

きっぱり言い放つ声に、苛立ちと疲労が混ざっていた。

龍之介の表情がさらに険しくなる。
「本当にそれだけか?」
低く唸るような声。

美咲は真っすぐに彼を見返す。
「どうしてそれすら疑うの? 私がそんなに信用できない?」

龍之介の胸が大きく上下した。
しばし沈黙ののち、低い声が落ちる。

「……信用してる。だがな…」
熱を帯びた瞳が美咲を射抜く。
「俺は知っているんだ。松田専務がおまえに特別な感情を抱いていることを」

美咲の目がわずかに揺れる。

「俺と同じだから、余計によくわかるんだ」
唇を噛みしめる龍之介の声音は、嫉妬と愛情が絡み合って切実に震えていた。

美咲は一瞬言葉を失い、それからかすれるように吐き出した。
「……だとしたら、何なの?」

胸がきゅっと締めつけられる。
まるで龍之介が、自分の愛を信じていないように聞こえてしまうから。
怒りと悲しみがいっしょにあふれ、頬を熱い涙が伝った。

だが、そんな美咲の姿を見ても、龍之介は歩みを止めなかった。
さらに詰め寄り、低く唸るように言葉を吐き出す。

「なんだ、その言い草は? あの状況下で……御曹司に心変わりでもしたのか?」

一瞬にして、空気が凍りつく。

美咲の目が大きく見開かれた。
信じてほしい一心で涙を流しているのに、彼の口からこぼれたのは最も聞きたくなかった言葉だった。

龍之介の瞳には嫉妬と恐れが混じっていたが、皮肉にもその不安が、心無い刃となって美咲を傷つけていく。
胸をえぐるような言葉に、ショックで言葉を失う。

龍之介はその沈黙を見下ろし、苛立ちを押し殺すように吐き捨てた。
「……答えないんだな」
低く荒んだ声が部屋に落ちる。

そのまま背を向けると、無言で寝室を横切り、バスルームへ向かう。
ドアが乱暴に閉じられ、すぐにシャワーの音が響き始めた。

リビングに取り残された美咲は、涙を拭うこともできず、胸の奥で何かが音を立てて崩れていくのを感じていた。

気づけば、足は寝室へと駆け込んでいた。
クローゼットを開き、通勤着や下着、最低限の化粧品や必需品をキャリーケースに詰め込んでいく。
振り返ることなく、ただ黙々と手を動かした。
ファスナーを勢いよく閉めると、キャリーケースを引きずる音がフローリングに響いた。
ドアノブに手をかける瞬間、胸の奥が強く痛んだ。

でも、このままでは自分を失ってしまう。

そう心の中でつぶやき、美咲はマンションを後にした。
雨の夜の街へと飛び出すその背に、まだシャワーの水音だけが虚しく響いていた。
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