秘めた恋は、焔よりも深く。
出勤はしたものの、龍之介の胸中は荒れていた。
表向きは病欠と聞かされた美咲の姿が頭から離れない。
書類に目を落としても、手元の携帯電話ばかりが気になる。
画面を点けては、通知が来ていないことに舌打ちし、またすぐに確かめてしまう。

「……黒瀬」

不意に、低い声が頭上から落ちた。
顔を上げると、真樹が鋭い視線でにらみつけていた。

「お前、仕事に集中できてないようだな」

その一言に、周囲の空気がぴりりと張り詰める。
龍之介は言い訳を飲み込んだ。

真樹は深くため息をつき、視線を外した。

「……もういい。おまえ、早退しろ」

「は?」

「命令だ。早くプライベートを何とかしろ。これ以上の公私混同は、俺の目障りだ」

龍之介は真樹に一礼すると、迷うことなく会社を飛び出した。
車に飛び乗り、アクセルを踏み込む。運転中、何度も美咲に電話をかけるが、

「お掛けになった電話番号は…」

無機質なアナウンスに切り替わるばかり。すぐに通話を切っては、再び発信ボタンを押す。
焦燥で胸が焼けつきそうだった。

自分の住むマンションに車を乗りつけ、エントランスを駆け上がる。
ドアを開けても、そこに美咲の姿はない。

「……どこにいるんだ⁈」

荒い息を吐きながら、部屋を見回す。虚しさが胸に押し寄せる。
次の瞬間、龍之介は再び車へと戻り、美咲のマンションへとハンドルを切った。

龍之介は車を停め、美咲のマンションのエントランスを駆け上がった。
玄関前に立った瞬間、全身に電流のような直感が走る。

美咲はここにいる。

確信に近い感覚だった。
息を荒げながらドアを叩きつける。

「美咲! いるんだろう、開けてくれ!」

返事はない。だが、彼女の気配が、この扉の向こうに確かにあると感じられた。
胸の奥に渦巻く焦りと切実さが、さらに拳を強くさせる。

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