秘めた恋は、焔よりも深く。
「……ありがとうございました。とても参考になりました」
建物を出て、美咲は小さく頭を下げた。
日差しは穏やかで、週末らしい和やかな空気が街を包んでいる。
「気に入ってもらえて良かったです。雰囲気が、佐倉さんに合っている気がしました」
「……そう言っていただけると、ちょっと嬉しいです」
ふと、松田が腕時計を見た。
「実は、今日もう一件、近くに良さそうな物件があって。少しだけ内覧できるように手配してあります。……お時間、まだ大丈夫でしょうか?」
不意に向けられた誘いに、美咲は一瞬だけ迷った。
(どうしよう……でも、ここまでしてくださってるし……)
「……お願いできますか?せっかくですし、見てみたいです」
「よかった。じゃあ、車をまわしてきます。暑いので、あちらで少し待っていてください」
そう言って、松田は静かに歩き出す。その背中を見送りながら、美咲はそっと息を吐いた。
(やっぱり、丁寧な人だな……でも、“距離感”の取り方がどこか絶妙で)
優しくも、どこか“踏み込まれている”ような感覚。
それを心の中で曖昧に抱えながら、美咲は次の場所へ向かう準備をした。
車で10分ほど移動し、松田が案内したのは、閑静な住宅街の中にある新しい低層マンションだった。
「こちらの方が少しコンパクトですが、内装にこだわりがあって。実は、個人的にとても気に入っている物件なんです」
そう言って案内された部屋は、30平米台の1LDK。
玄関から続く廊下はすっきりとシンプルで、リビングには小ぶりながらも質のよいソファとダイニングセット。
淡いベージュとホワイトを基調とした内装が、落ち着いた空気を醸していた。
「……素敵ですね。シンプルだけど、どこか品があるというか……」
「気に入っていただけてよかった。こういう空間に、柔らかな明かりが灯っていたら、疲れも自然にほどけるような気がするでしょう?」
窓辺に立つ松田が、そっと微笑む。
(……やっぱりこの人、言葉の選び方が丁寧。だけどどこか、個人的な……)
「少し狭く感じる方もいますが、一人で暮らすなら十分ですよ。もし、必要があれば家具付きでも調整できます」
「家具付き?」
「ええ。たとえば、こういうテーブルの高さや色合い、気に入っていただければ、そのままお譲りも可能です」
まるで、ここに住むことがもう前提のような話し方に、少しだけ胸がざわめいた。
内覧を終えて外に出ると、時刻は13時を少し過ぎていた。
「お時間、そろそろお昼ですよね」
「……あ、はい」
「もしご迷惑でなければ、この近くで軽く何かどうでしょう。ちょうど良いカフェレストランがあるんです。雰囲気も落ち着いていて」
(……食事のお誘い?でも、今の流れなら、不自然ではないかも)
「せっかくですし、少しだけなら……」
「ありがとうございます。それでは、行きましょう」
再び車に乗り込んだ車内。
助手席で美咲は小さく息を吐いた。
(……こんなふうに誰かと物件を見て、ランチまでなんて。少し前の私なら考えられなかった)
まだ何も始まっていない。
でも、何かがゆっくりと、動き出しているような――そんな予感が、美咲の胸をかすかに揺らしていた。
建物を出て、美咲は小さく頭を下げた。
日差しは穏やかで、週末らしい和やかな空気が街を包んでいる。
「気に入ってもらえて良かったです。雰囲気が、佐倉さんに合っている気がしました」
「……そう言っていただけると、ちょっと嬉しいです」
ふと、松田が腕時計を見た。
「実は、今日もう一件、近くに良さそうな物件があって。少しだけ内覧できるように手配してあります。……お時間、まだ大丈夫でしょうか?」
不意に向けられた誘いに、美咲は一瞬だけ迷った。
(どうしよう……でも、ここまでしてくださってるし……)
「……お願いできますか?せっかくですし、見てみたいです」
「よかった。じゃあ、車をまわしてきます。暑いので、あちらで少し待っていてください」
そう言って、松田は静かに歩き出す。その背中を見送りながら、美咲はそっと息を吐いた。
(やっぱり、丁寧な人だな……でも、“距離感”の取り方がどこか絶妙で)
優しくも、どこか“踏み込まれている”ような感覚。
それを心の中で曖昧に抱えながら、美咲は次の場所へ向かう準備をした。
車で10分ほど移動し、松田が案内したのは、閑静な住宅街の中にある新しい低層マンションだった。
「こちらの方が少しコンパクトですが、内装にこだわりがあって。実は、個人的にとても気に入っている物件なんです」
そう言って案内された部屋は、30平米台の1LDK。
玄関から続く廊下はすっきりとシンプルで、リビングには小ぶりながらも質のよいソファとダイニングセット。
淡いベージュとホワイトを基調とした内装が、落ち着いた空気を醸していた。
「……素敵ですね。シンプルだけど、どこか品があるというか……」
「気に入っていただけてよかった。こういう空間に、柔らかな明かりが灯っていたら、疲れも自然にほどけるような気がするでしょう?」
窓辺に立つ松田が、そっと微笑む。
(……やっぱりこの人、言葉の選び方が丁寧。だけどどこか、個人的な……)
「少し狭く感じる方もいますが、一人で暮らすなら十分ですよ。もし、必要があれば家具付きでも調整できます」
「家具付き?」
「ええ。たとえば、こういうテーブルの高さや色合い、気に入っていただければ、そのままお譲りも可能です」
まるで、ここに住むことがもう前提のような話し方に、少しだけ胸がざわめいた。
内覧を終えて外に出ると、時刻は13時を少し過ぎていた。
「お時間、そろそろお昼ですよね」
「……あ、はい」
「もしご迷惑でなければ、この近くで軽く何かどうでしょう。ちょうど良いカフェレストランがあるんです。雰囲気も落ち着いていて」
(……食事のお誘い?でも、今の流れなら、不自然ではないかも)
「せっかくですし、少しだけなら……」
「ありがとうございます。それでは、行きましょう」
再び車に乗り込んだ車内。
助手席で美咲は小さく息を吐いた。
(……こんなふうに誰かと物件を見て、ランチまでなんて。少し前の私なら考えられなかった)
まだ何も始まっていない。
でも、何かがゆっくりと、動き出しているような――そんな予感が、美咲の胸をかすかに揺らしていた。