秘めた恋は、焔よりも深く。
美咲の空になったグラスに気づき、松田専務が視線を向けた。
「佐倉さん……もしよかったら、このあと夕食に付き合っていただけないだろうか?」
わずかに声を落としながら続ける。
「このホテルのレストランは、とてもいいんだが……」
その遠慮がちな口ぶりに、美咲は思わず口元を緩めた。
(こんな専務、ちょっとかわいらしいかも)
「いいですよ。」自然に笑みがこぼれ、快くうなずいた。
専務はすぐに席のスタッフを呼び、バーから最上階のレストランへの予約を入れる。
「良く空いてましたね。」
美咲が感心すると、専務は軽く微笑んだ。
「オーナーシェフの家族とは、祖父の代からの付き合いなんですよ。」
「それは……すごいご縁ですね。」
「ええ。おかげで、このレストランはいつでも“家の食卓”みたいなものです。」
美咲はその言葉に小さく笑い、これから向かう食事の時間を少しだけ楽しみに感じていた。
エレベーターの扉が静かに開くと、眼前に広がるのは夜景を一望できるガラス張りのフロアだった。
都会の灯りが星のように瞬き、テーブルのキャンドルの炎が柔らかく揺れている。
案内されたのは、窓際の二人席。
席に着くと、松田専務は当たり前のように椅子を引き、美咲をエスコートした。
「こういう景色、お好きですか?」
「はい……やっぱり特別な気持ちになります。」
ワインリストが差し出され、専務は自然な所作でページをめくる。
「白と赤、どちらがお好みですか?」
「軽めの白がいいです。」
「では……食事に合わせて選びましょう。」
松田のスムーズな振る舞いに感心して黙っていると、専務が首を傾げた。
「佐倉さん、どうかされましたか?」
「あ、その……松田専務は、やはり慣れていらっしゃるんだなって思っただけです。」
「まあ、会食や家族の祝い事などでも来ていますから。」
専務は微笑を浮かべた後、少しだけ声を落とした。
「佐倉さん、これは仕事上の会食ではなく……プライベートで、あなたと食事を楽しみたい。」
美咲は思わず視線を上げる。
「今は、“専務”と呼ぶのはやめて、名前でお願いしたい。」
「でも……」ためらう美咲に、専務はゆっくりと言葉を置いた。
「圭吾、です。松田圭吾。」
「……では、松田さん、とお呼びしますね。」
「俺としては、下の名前で呼んでほしいのだけれど。」
その瞬間、先ほどまでの穏やかな笑顔に、ふっと男の色気が差し込む。
美咲は、不意に距離を縮められたような感覚に、胸の鼓動が早まっていくのを抑えられなかった。
そのとき、テーブルに前菜が運ばれてきた。
白い皿の上に、色鮮やかな季節野菜と魚介が美しく配置され、まるで絵画のようだ。
「……美しいですね。」美咲は自然に口をついた言葉で視線を皿に落とした。
(落ち着け……仕事じゃない、これはプライベート……)
しかし、向かいに座る圭吾、松田専務の視線が、皿よりも自分を見ていることに気づき、胸の奥がざわめく。
グラスを手に取る指先が、わずかに震えた。
「佐倉……いや、美咲さん。」
低く、ゆっくりとした呼び方に、心臓が一拍跳ねる。
「……はい。」
「料理もいいですが……今夜は、あなたと話す時間が一番のご馳走です。」
真正面から投げられたその言葉に、美咲は笑みを作りながらも、視線を皿に戻した。
(どうしてそういうことを、何のためらいもなく言えるの……)
キャンドルの炎がグラスの縁で揺れ、夜景の明かりがその奥で滲んでいた。
「佐倉さん……もしよかったら、このあと夕食に付き合っていただけないだろうか?」
わずかに声を落としながら続ける。
「このホテルのレストランは、とてもいいんだが……」
その遠慮がちな口ぶりに、美咲は思わず口元を緩めた。
(こんな専務、ちょっとかわいらしいかも)
「いいですよ。」自然に笑みがこぼれ、快くうなずいた。
専務はすぐに席のスタッフを呼び、バーから最上階のレストランへの予約を入れる。
「良く空いてましたね。」
美咲が感心すると、専務は軽く微笑んだ。
「オーナーシェフの家族とは、祖父の代からの付き合いなんですよ。」
「それは……すごいご縁ですね。」
「ええ。おかげで、このレストランはいつでも“家の食卓”みたいなものです。」
美咲はその言葉に小さく笑い、これから向かう食事の時間を少しだけ楽しみに感じていた。
エレベーターの扉が静かに開くと、眼前に広がるのは夜景を一望できるガラス張りのフロアだった。
都会の灯りが星のように瞬き、テーブルのキャンドルの炎が柔らかく揺れている。
案内されたのは、窓際の二人席。
席に着くと、松田専務は当たり前のように椅子を引き、美咲をエスコートした。
「こういう景色、お好きですか?」
「はい……やっぱり特別な気持ちになります。」
ワインリストが差し出され、専務は自然な所作でページをめくる。
「白と赤、どちらがお好みですか?」
「軽めの白がいいです。」
「では……食事に合わせて選びましょう。」
松田のスムーズな振る舞いに感心して黙っていると、専務が首を傾げた。
「佐倉さん、どうかされましたか?」
「あ、その……松田専務は、やはり慣れていらっしゃるんだなって思っただけです。」
「まあ、会食や家族の祝い事などでも来ていますから。」
専務は微笑を浮かべた後、少しだけ声を落とした。
「佐倉さん、これは仕事上の会食ではなく……プライベートで、あなたと食事を楽しみたい。」
美咲は思わず視線を上げる。
「今は、“専務”と呼ぶのはやめて、名前でお願いしたい。」
「でも……」ためらう美咲に、専務はゆっくりと言葉を置いた。
「圭吾、です。松田圭吾。」
「……では、松田さん、とお呼びしますね。」
「俺としては、下の名前で呼んでほしいのだけれど。」
その瞬間、先ほどまでの穏やかな笑顔に、ふっと男の色気が差し込む。
美咲は、不意に距離を縮められたような感覚に、胸の鼓動が早まっていくのを抑えられなかった。
そのとき、テーブルに前菜が運ばれてきた。
白い皿の上に、色鮮やかな季節野菜と魚介が美しく配置され、まるで絵画のようだ。
「……美しいですね。」美咲は自然に口をついた言葉で視線を皿に落とした。
(落ち着け……仕事じゃない、これはプライベート……)
しかし、向かいに座る圭吾、松田専務の視線が、皿よりも自分を見ていることに気づき、胸の奥がざわめく。
グラスを手に取る指先が、わずかに震えた。
「佐倉……いや、美咲さん。」
低く、ゆっくりとした呼び方に、心臓が一拍跳ねる。
「……はい。」
「料理もいいですが……今夜は、あなたと話す時間が一番のご馳走です。」
真正面から投げられたその言葉に、美咲は笑みを作りながらも、視線を皿に戻した。
(どうしてそういうことを、何のためらいもなく言えるの……)
キャンドルの炎がグラスの縁で揺れ、夜景の明かりがその奥で滲んでいた。