秘めた恋は、焔よりも深く。
美咲はグラスを置き、ふと問いかけた。
「松田さんには、確か……息子さんがいらっしゃるんですよね。」
「はい。湊といって、今年で二十六になります。」
「御社にお勤めなんですか?」
「いえ、自分で起業して……小規模ですが、何とかやっているようですね。」
「企業家でいらっしゃるんですね……すごいわ。」
「どうでしょうね。本人は好きなことをやっているようですが……親としては、もう少し堅実な道を歩んでほしいとも思います。」
圭吾はそう言いながらも、口元にはわずかな誇らしさが滲んでいた。
「息子とは……いろいろありましてね。」
圭吾はグラスを軽く回しながら、少し視線を落とした。
「二年ほど、絶縁状態でした。」
「……そうだったんですか。」
「ええ。つい最近、娘の勧めもあって、ようやくまた話せるようになりました。」
美咲は小さく息をのみ、表情を和らげた。
「すみません、立ち入ったことを聞いてしまって。」
「いいんです。むしろ…あなたには話したい。聞いていただけますか?」
「……はい。」
圭吾の低い声と真剣なまなざしに、美咲は自然と背筋を正していた。
この人が今から語ろうとしていることは、ただの家族の話ではなく、
彼自身の心の奥に触れる何かだと直感したからだ。
「息子は、素直な子どもでした。」
圭吾はゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
「周りの意見をよく聞き、親族経営であるわが社の重要な役割を果たすために、
勉強も一生懸命していました。学校でも問題を起こすことはなく、実に手のかからない子でした。」
美咲は黙って相槌を打ちながら、グラスの縁に指を添える。
「大学在学中に、起業したいと言い出しましてね。」
圭吾の声がわずかに懐かしさを帯びる。
「これも将来役に立つ経験だろうと判断した私は、いずれ戻ることを条件に、いくらか出資したんです。」
「しばらくして、息子の会社が軌道に乗りました。
出資した分を息子は返してきました――『もう大丈夫だから』と言って。」
圭吾はそこで一拍置き、グラスの水をひと口含む。
「その頃でしょうか。息子はある女性に出会いました。」
美咲は静かに息を呑む。
「一年後に、結婚したいと言い出したとき……私は猛反対しました。」
そう言って、圭吾は水のグラスをテーブルに戻した。
美咲は黙ったまま、その続きを待っていた。
「その女性は……私と同じ年齢でした。」
圭吾は淡々と語りながらも、グラスの水面をじっと見つめる。
「しかも、離婚歴があり、子どももいる。息子より二十六歳も年上なんです。」
美咲は思わず目を瞬かせた。
「……二十六歳も?」
「そうです。」圭吾は短くうなずく。
「年齢や経歴がどうこうというより……私は息子の将来を思えばこそ、到底受け入れられなかった。」
声は静かだが、その奥には当時の動揺がまだ燻っているようだった。
美咲は何も言わず、その感情の揺れをただ受け止めていた。
「松田さんには、確か……息子さんがいらっしゃるんですよね。」
「はい。湊といって、今年で二十六になります。」
「御社にお勤めなんですか?」
「いえ、自分で起業して……小規模ですが、何とかやっているようですね。」
「企業家でいらっしゃるんですね……すごいわ。」
「どうでしょうね。本人は好きなことをやっているようですが……親としては、もう少し堅実な道を歩んでほしいとも思います。」
圭吾はそう言いながらも、口元にはわずかな誇らしさが滲んでいた。
「息子とは……いろいろありましてね。」
圭吾はグラスを軽く回しながら、少し視線を落とした。
「二年ほど、絶縁状態でした。」
「……そうだったんですか。」
「ええ。つい最近、娘の勧めもあって、ようやくまた話せるようになりました。」
美咲は小さく息をのみ、表情を和らげた。
「すみません、立ち入ったことを聞いてしまって。」
「いいんです。むしろ…あなたには話したい。聞いていただけますか?」
「……はい。」
圭吾の低い声と真剣なまなざしに、美咲は自然と背筋を正していた。
この人が今から語ろうとしていることは、ただの家族の話ではなく、
彼自身の心の奥に触れる何かだと直感したからだ。
「息子は、素直な子どもでした。」
圭吾はゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。
「周りの意見をよく聞き、親族経営であるわが社の重要な役割を果たすために、
勉強も一生懸命していました。学校でも問題を起こすことはなく、実に手のかからない子でした。」
美咲は黙って相槌を打ちながら、グラスの縁に指を添える。
「大学在学中に、起業したいと言い出しましてね。」
圭吾の声がわずかに懐かしさを帯びる。
「これも将来役に立つ経験だろうと判断した私は、いずれ戻ることを条件に、いくらか出資したんです。」
「しばらくして、息子の会社が軌道に乗りました。
出資した分を息子は返してきました――『もう大丈夫だから』と言って。」
圭吾はそこで一拍置き、グラスの水をひと口含む。
「その頃でしょうか。息子はある女性に出会いました。」
美咲は静かに息を呑む。
「一年後に、結婚したいと言い出したとき……私は猛反対しました。」
そう言って、圭吾は水のグラスをテーブルに戻した。
美咲は黙ったまま、その続きを待っていた。
「その女性は……私と同じ年齢でした。」
圭吾は淡々と語りながらも、グラスの水面をじっと見つめる。
「しかも、離婚歴があり、子どももいる。息子より二十六歳も年上なんです。」
美咲は思わず目を瞬かせた。
「……二十六歳も?」
「そうです。」圭吾は短くうなずく。
「年齢や経歴がどうこうというより……私は息子の将来を思えばこそ、到底受け入れられなかった。」
声は静かだが、その奥には当時の動揺がまだ燻っているようだった。
美咲は何も言わず、その感情の揺れをただ受け止めていた。