秘めた恋は、焔よりも深く。
真っ直ぐな声に、美咲は胸の奥を強く揺さぶられた。
視線を逸らそうとした、その瞬間。

「失礼いたします」
襖が静かに開き、店員が料理を運んできた。

炭火の上で弾ける音に重なるように、皿の上で艶やかに並ぶ肉や野菜が卓上に置かれていく。
甘辛いタレの香りがふわりと立ちのぼり、緊張に支配されていた空気を一瞬で別のものに変える。

「こちら、特上コースになります」
店員の声に、美咲は思わず背筋を伸ばし、表情を整えようとした。

襖が閉じられ、再び二人きりになった空間。
けれどさっきまでの熱は、まだ確かに残っている。

龍之介がゆっくりとトングを手に取る。

「まずは腹ごしらえだな」
龍之介がにやりと笑みを浮かべ、焼き上がった肉を美咲の皿に置いた。

その表情は、まるで長い付き合いの恋人に気安く世話を焼く男のようで、どこか楽しげだ。
普段は鋭い眼差しをしているのに、今の彼の顔は柔らかく、子どものように嬉しそうに見える。

「……ありがとうございます」
美咲は箸を取る手に少し力を込めながら、礼を言った。

「いい肉は、熱いうちに食べるのが一番だ」
どこか誇らしげに言いながら、自分の分を網の端に並べる龍之介。
その仕草に、美咲はまた胸の奥をざわつかせた。

(……どうして、こんなに自然に“隣にいる人”みたいな顔をするんだろう)

「……おいしい」
思わずこぼれた美咲の声に、龍之介の目尻がやわらかくほころぶ。

「だろう?」
満足げにうなずいたあと、静かに言葉を続けた。

「……さっきの話だが」
龍之介はグラスを置き、美咲を見つめる。
その眼差しは、静かな熱を帯びながらも落ち着いていた。

「俺はようやく気づいたんだ」
一拍の間を置き、言葉を選ぶように低く続ける。
「ずっと…君を目で追っていたことに」

美咲の胸がひときわ強く脈打つ。
「……っ」

「仕事の場でも、ふとした瞬間でも。気づけば君を探していた」
その声は、押しつけがましさなど微塵もなく、ただ事実を静かに告げている。

「俺は……君を好きだ。大人として、ひとりの男として、君をこの手で愛したい」

重すぎる言葉なのに、不思議と苦しくない。
美咲は箸を持つ手を止めたまま、どうしても視線を合わせられなかった。
胸の奥が大きく揺れ、理性と感情がせめぎ合う。

「……今すぐに、君に好かれたいと急かすつもりはない」
龍之介は静かにグラスを置き、柔らかい笑みを浮かべる。

「けれど、このキャンプの仕事を通して、君の心を、丁寧にほどいていきたい。
気づけば、隣にいるのが自然だと思ってもらえるように」

真っ直ぐに見つめる瞳には、力強さよりも深い慈しみが宿っている。

「君を大切にすることに、俺は一度も迷わない。……そういう男であることを、必ず証明する」

言葉は静かなのに、逃げ場を与えないほどの熱が込められていて、美咲はただ息を呑むしかなかった。

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