秘めた恋は、焔よりも深く。
並木道を抜けた先、小さな広場に置かれたベンチに腰を下ろした。
秋風は少し冷たくなってきていたが、陽だまりの中では柔らかな温もりが残っている。
龍之介は近くの売店で買った紙カップを二つ差し出した。
「ホットコーヒーだ。冷えるだろうと思って」
「ありがとうございます」
両手でカップを受け取った美咲は、ほっと息を吐きながら口元に運ぶ。
立ちのぼる香ばしい香りが、胸の奥まで温めてくれるようだった。
「……落ち着きますね」
「そうだな」
しばし、コーヒーを口に含みながら静かな時間が流れた。
舞い散る銀杏の葉がストールに落ちると、龍之介がそっと摘み取って指先で弄ぶ。
「美咲の好きなことを、もっと教えてほしい」
カップの温もりを両手で包み込みながら、美咲はふと視線を落ち葉に向けた。
「銀杏の花言葉って……長寿、って聞いたことがあります」
「長寿?」
龍之介が眉をわずかに動かす。
「はい。長生きするっていう意味だけじゃなくて、物事が長く続いていく、そういうことも表しているそうです」
ストールを直しながら、どこか照れくさそうに続けた。
「……素敵ですよね。続いていくって」
龍之介はしばし黙り、美咲を見つめた。
その真剣な眼差しに、彼女の胸が高鳴る。
「……ああ、確かにそうだな」
「……黒瀬さん、私のこと、本当に知りたいんですか?」
問いかける声は、柔らかいけれど奥に慎重さが滲んでいた。
彼女の過去に触れてはいけない領域があると、どこかで彼も感じ取っていたからだ。
黒瀬は一瞬だけ目を細め、そして迷いなく答えた。
「知りたい。……全部とは言わない。けれど、美咲が俺に見せてくれることなら、何でも」
「……何でも?」
美咲が問い返すと、黒瀬は少し視線を遠くに向け、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「人生の折り返し地点を過ぎて思うんだ。……いつか終わりが来るなら、こういう美しい景色を、誰かと分かち合う瞬間を重ねていきたい」
秋の銀杏並木に、舞い降りる葉がはらはらと二人の肩に積もっていく。
黒瀬は再び彼女を見つめ、その瞳に真摯な光を宿した。
「その“誰か”は……美咲、君がいい」
思わず視線を逸らそうとする美咲の手を、黒瀬は逃さぬようにそっと握り込んだ。
真っ直ぐに彼女を見つめ、低く響く声で言葉を重ねる。
「……美咲。君の名のように、美しく咲くその人生に、俺を入れてほしい」
胸の奥に届く響きに、美咲は息を呑んだ。
ストールの裾を握りしめる手がわずかに震える。
「黒瀬さん……」
その一言に、これまでの戸惑いや迷いが滲んでいた。
けれど同時に、その声音には、確かに揺さぶられた心が宿っていた。
「……そろそろ、出るか」
黒瀬がそう言って立ち上がり、美咲の手を取った。
自然な仕草に導かれるまま、二人は並んで駐車場へと歩き出す。
夕暮れに傾いた光が銀杏並木を黄金色に染め、長く伸びた二人の影が寄り添うように重なっていた。
車に戻る直前、黒瀬がふいに足を止め、スマートフォンを取り出した。
「……最後にもう一枚。俺とお前の自撮りだ」
「えっ……またですか?」
美咲は戸惑いながらも彼の隣に寄る。
画面に映るのは、花の丘での少し緊張した笑みとは違う、秋の夕暮れに照らされた柔らかな表情の二人だった。
シャッター音が響く。
その瞬間は、秋の日の思い出として静かに刻まれていった。
秋風は少し冷たくなってきていたが、陽だまりの中では柔らかな温もりが残っている。
龍之介は近くの売店で買った紙カップを二つ差し出した。
「ホットコーヒーだ。冷えるだろうと思って」
「ありがとうございます」
両手でカップを受け取った美咲は、ほっと息を吐きながら口元に運ぶ。
立ちのぼる香ばしい香りが、胸の奥まで温めてくれるようだった。
「……落ち着きますね」
「そうだな」
しばし、コーヒーを口に含みながら静かな時間が流れた。
舞い散る銀杏の葉がストールに落ちると、龍之介がそっと摘み取って指先で弄ぶ。
「美咲の好きなことを、もっと教えてほしい」
カップの温もりを両手で包み込みながら、美咲はふと視線を落ち葉に向けた。
「銀杏の花言葉って……長寿、って聞いたことがあります」
「長寿?」
龍之介が眉をわずかに動かす。
「はい。長生きするっていう意味だけじゃなくて、物事が長く続いていく、そういうことも表しているそうです」
ストールを直しながら、どこか照れくさそうに続けた。
「……素敵ですよね。続いていくって」
龍之介はしばし黙り、美咲を見つめた。
その真剣な眼差しに、彼女の胸が高鳴る。
「……ああ、確かにそうだな」
「……黒瀬さん、私のこと、本当に知りたいんですか?」
問いかける声は、柔らかいけれど奥に慎重さが滲んでいた。
彼女の過去に触れてはいけない領域があると、どこかで彼も感じ取っていたからだ。
黒瀬は一瞬だけ目を細め、そして迷いなく答えた。
「知りたい。……全部とは言わない。けれど、美咲が俺に見せてくれることなら、何でも」
「……何でも?」
美咲が問い返すと、黒瀬は少し視線を遠くに向け、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「人生の折り返し地点を過ぎて思うんだ。……いつか終わりが来るなら、こういう美しい景色を、誰かと分かち合う瞬間を重ねていきたい」
秋の銀杏並木に、舞い降りる葉がはらはらと二人の肩に積もっていく。
黒瀬は再び彼女を見つめ、その瞳に真摯な光を宿した。
「その“誰か”は……美咲、君がいい」
思わず視線を逸らそうとする美咲の手を、黒瀬は逃さぬようにそっと握り込んだ。
真っ直ぐに彼女を見つめ、低く響く声で言葉を重ねる。
「……美咲。君の名のように、美しく咲くその人生に、俺を入れてほしい」
胸の奥に届く響きに、美咲は息を呑んだ。
ストールの裾を握りしめる手がわずかに震える。
「黒瀬さん……」
その一言に、これまでの戸惑いや迷いが滲んでいた。
けれど同時に、その声音には、確かに揺さぶられた心が宿っていた。
「……そろそろ、出るか」
黒瀬がそう言って立ち上がり、美咲の手を取った。
自然な仕草に導かれるまま、二人は並んで駐車場へと歩き出す。
夕暮れに傾いた光が銀杏並木を黄金色に染め、長く伸びた二人の影が寄り添うように重なっていた。
車に戻る直前、黒瀬がふいに足を止め、スマートフォンを取り出した。
「……最後にもう一枚。俺とお前の自撮りだ」
「えっ……またですか?」
美咲は戸惑いながらも彼の隣に寄る。
画面に映るのは、花の丘での少し緊張した笑みとは違う、秋の夕暮れに照らされた柔らかな表情の二人だった。
シャッター音が響く。
その瞬間は、秋の日の思い出として静かに刻まれていった。