日ノ本元号男子

元号達と食べ放題

......あれ、何で焼肉屋に来てるんだっけ......?
思い出すのは一週間前。
「肉食いたいよな。よし、焼肉しに行こーよ!!」
平成くんがスマホを掲げて、みんなに見せびらかすようにしながら回した。
「牛の焼肉......でありますか」
「牛鍋と違うのでしょうか?」
不思議そうに首を傾げる安土桃山くんと明治さんに、平成くんは得意げに説明する。
「そう!焼肉!網の上にお肉をジュージュー焼いて、次々と熱々を食べるんだ!」
その言葉に反応したであろう昭和くんもワクワクしながら、スマホの焼肉画面を覗き込む。
「しかも食べ放題!三千円で腹一杯食えるんだよー!」
「三千円かー......そのお店潰れるよ〜」
大正くんがヘラヘラしながら手をブンブン振る。
「面白そうだな!」
最終的に奈良さんの「よし行こう!」というひと言で、行くことになった。
〜焼肉屋〜
網を囲むようにテーブル埋め尽くされたカルビ、ロース、ホルモン......さまざまなお肉の皿が所狭しと並んでいる。
人数が多いので、三つのテーブルに座ることになった。
縄文くん、弥生くん、古墳くん、飛鳥くん、奈良さん、平安さんの『古代グループ』
鎌倉さん、南北ツインズ、室町くん、戦国さん、安土桃山くんの『中世グループ』
江戸くん、明治さん、大正くん、昭和くん、平成くん、私の『近代~現代グループ』
「じゃ、焼こ焼こ〜」
「どうやって焼くんだ?」
「このトングを使って〜」
「トング?この箸みたいなやつのことか?」
「そうそれ〜!奈良さんナイス〜」
奈良さんがカチカチとトングを鳴らす。平成くんと昭和くんが実演してみせる。
「牛を殺して......食べる」
江戸くんが網の上でジュージューと焼かれるお肉を怪訝(けげん)そうに凝視する。
「江戸は『生類憐(しょうるいあわれ)みの令』を体験しましたもんね。少し抵抗があるのでしょう」
だがすぐに、あちこちから歓声が上がった。
「美味しい......!」
「んん〜!うまかー!」
「これめっちゃ美味いやん!何でこんな美味いやつ禁止したんや?」
縄文くん、弥生くん、古墳くんからは高評価。
「仏教の影響なのですよー!」
実際に禁止令を出した時代である飛鳥くんもウキウキしながらお肉をひっくり返している。
「面白そうやわぁ。どれ、一枚焼いて......」
飛鳥くんの隣で平安さんもトング片手に初挑戦。しかし、カチカチと音が鳴るだけで掴めない。
「上手く掴めないですねぇ」
「壊れてんちゃん?」
「こっちは菜箸(さいばし)を使ってるよー」
「箸はやっぱり良いな......」
トングを諦めて菜箸を使う南北ツインズ。中世グループは一番多めにお肉を注文しているのだが、気づけばなくなっている。
「沢山あったはずなんだが......」
鎌倉さんは空になったお皿を見て呟き、ある人物に目を向けた。
「戦国か!!」
戦国さんは箸を動かす速度が速すぎて、もはや肉も箸も見えない。
大食大飲(たいしょくだいいん)は健康の仇、食事は適量が肝心ですわ。焼肉、初めて食べましたけど、すごく美味しいですわ!」
言葉とは裏腹に、お肉を食べるスピードは全く落ちない。
(す、凄い......。普通に一人前を食べるスピードでどんどん吸い込まれていく......)
「と、取れないよ〜」
「取れない......!!」
「早すぎて見えないであります」
「戦国!」
とうとうしびれを切らした鎌倉さんが戦国さんに言う。
「肉......肉をくれないか......?南と北、室町や安土桃山にも食わせてやれ」
「鎌倉くん鎌倉くん、僕は別にお菓子があれば十分だよ」
「あ、あら、すみません。私一人で食べてしまって......」
戦国さんは恥ずかしそうに箸を置いて、傍に立て掛けてあったメニュー表を手に取り、真顔で言った。
「ちょっとお肉の量、少なかったですわね」
「......は?」
予想していなかった言葉に固まる鎌倉さん。
まー、戦国さんは小腹が空いたからって言って、どんぶりを数個食べるような人だもんなぁ......。
そして私のグループは―――
「じゃあ次のお肉焼くよー!」
平成くんが先陣切ってお肉を焼き、それに興味を持った昭和くんがトングでお肉をひっくり返す。
「やっと一枚焼けた......」
花がほころんだような笑顔になる昭和くん。
「あ、昭和ー!そのお肉美味しそ〜」
横からそのお肉を奪う大正くん。
「た〜い〜しょ〜う!!」
大正くんの胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶる。
網の上でジュウ、と小さく音を立てる肉を、江戸くんはじっと見つめていた。
少し考えるように見つめてから、ご飯の上に、一枚乗せた。
「美味しい......」
「でしょ!」
隣で上タンを食べていた平成くんは何故かドヤ顔だ。
江戸くんはそれ以上は言わず、また黙々と箸を動かし始めた。
だが、その茶碗はさっきより、少しだけ早く空になっていた。
「思ったよりは美味(びみ)やったねぇ」
「ええ、牛鍋も美味しいですよ」
(みんな楽しんでる......のかな?)
お肉をひとしきり堪能した後は、次第にメニュー表もデザート欄をめくっていた。
「アイス頼もうよ!」
「良いねそれ」
平成くんが元気良く手を上げると同時に、室町くんはもう真剣な顔で選び始めていた。
「このめろんそーだ?は飲み物の上に氷菓子が乗ってるのですよー!」
「美味そうやな!」
「私はお茶で十分やわぁ」
「美味しい!」
「室町がずっと食べる理由が分かった気がする」
南朝くんはプリンを、北朝くんはチーズケーキを食べていた。
平和だなぁ......。
「この白いの......ミルクの味がしますわ」
「白いのはバニラだよ。バニラと抹茶ほしい」
戦国さんは感心したように頷きながら、空になった器を前に、もう一度メニュー表へ手を伸ばす。
その隣で室町くんも当然のように追加注文した。
「ほどほどにしなさい」
ついには二人の手から鎌倉さんがメニュー表を取り上げる始末。

「えーっとお会計で―――」
レジに立つ店員さんが伝票を見た瞬間、目が泳ぎ始めた。
「し、失礼......します」
店員さんは合計伝票を見つめ、唇を震わせた。
「お肉大皿が百六十人前、デザート......四十......えっと......しかも全部完食......」
......いや、そんなに食べたの!?ほとんど戦国さんと室町くんだよね!?しかも何皿とかじゃなくて何人前なの!?百六十って何皿なんだろう......?
「あ、あの......」
店員さんがついに涙を零した。
「アイス無料券を差し上げますので......っ......で、出禁にしても宜しいでしょうか?」
「......潰れないよね......このお店」
小声で呟く私。
「うん、きっと大丈夫」
平成くんが笑顔で答えるが、その笑みは少し引きつっていた。
店員さんはアイス無料券を私達全員に差し出したまま、深く、深く頭を下げている。
(......次は、食べ放題じゃない所にしよう。あ、でもそしたらお財布が痛くなるか......)
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