日ノ本時代男子
明治6年。

帰ってきた岩倉使節団だが、何か議会の様子が変わっていた。

大激論の末に留守政府は解体され、カリスマ・西郷隆盛は『明治六年の政変』によって政権を失い、二度と政府に戻ることはなかった。

その空白を縫うように、存在感を強めていった人物がいる。


―――大隈重信(おおくましげのぶ)。


​「今の政府は生ぬるい。国民のための国会を、今すぐ開くべきである!」

どんな大物政治家にも一歩も引かずにズバズバと切り込んでいく、先進的でアグレッシブな政治スタイル。

「大隈さん、マジでカッケー!」

「既存の老害政治家をぶっ潰してくれ!」

世間の若者やメディアは、そんな大隈さんをそれはもうめちゃくちゃにチヤホヤするのでした。

✳✳✳

「大隈重信公、国会開設急進(きゅうしん)論を唱え……」

私は議会の二階席に座り、手元の新聞を広げていた。

見渡す限りの新聞も、街いっぱいの世間話も、すべて大隈さん一色だ。

でも、ちょっと待って。歴史の教科書だと、日本の初代総理大臣になるのは伊藤博文さんのはず。

この『大隈無双』のイケイケな流れなら、大隈さんが初代総理大臣になってもおかしくないはずなんだけど……。

しかも確か大隈さんって、このあと議会から追い出されるんじゃなかったっけ?

こんなに人気なのに……?

​隣に座る明治さんが、フフッと意味深に笑いながら、別の新聞の見出しを見せてくれた。

そこには『大隈重信公、政府の不祥事を大暴露!』『大隈公の歯に衣着せぬもの言いが若者に大人気!』という文字。

「大隈さんは頭がキレすぎて、政府内の秘密まで世間に暴露しちゃったんです。この流れもあって、完全に泥沼の対立姿勢だった伊藤さんと大隈さんは、一旦和解することになります。……ええ、あくまで『表面上』は、ですが」

階下の議会を見下ろすと、大勢の議員たちが見守る中央で、伊藤さんと大隈さんがガシッと力強く握手を交わしていた。

周りの議員達も「おおーっ!」「これで政府も安泰だ!」とわいわい拍手している。すごく楽しそうで平和な光景だなぁ……。

✳✳✳

とある日の議会。

「本日の議題は国会開設についてですね」

ドイツを参考にじっくり案を練るべきだという漸進(ぜんしん)派の伊藤さん。

イギリスを参考にすぐにでも国会開設を急ぐべし!急進派の大隈さん。

すると、和解したはずの両者の後ろで、議員達が一斉にヒートアップし始めた。

「伊藤さん、ガツンとお願いします!」

「大隈さん!負けないで!」

「大隈さん派は減ったけど、いなくなった訳じゃねぇからな!数ばっか揃えやがって!」

「数を揃えるのは政治では正当法!それに、伊藤さんの考える国会案は優秀だ!」

議員による伊藤さん派と大隈さん派の対立。

​怒号とヤジが飛び交い、議場は一瞬にしてケンカ祭り状態。

「何だか伊藤さん派の方が優勢な気が……」

「どうやら伊藤さんが大隈さん支持層の切り崩しに成功したみたいですね」

「留守政府が入れ替わったのが明治六年の政変。今見ている対立が『明治十四年』ですね」

そして、大隈重信は政界から去った。

しかし、議場の出口へと歩く大隈さんの後ろ姿は、不思議とえらく堂々としており、むしろ負け惜しみひとつない爽やかさに満ちあふれていた……!

「このあと、大隈さんは早稲田大学を創ったり、政党を作ったりしてさらにパワーアップして戻ってきます」
「議会に対する未練が!」

「それでは、『明治時代クイズ』です!」

「いきなり!?」

明治さんが問題の書かれたスケッチブックを私に向ける。

【問題】
明治初期、大改革である『廃藩置県(はいはんちけん)』によって、日本全国に新しい地方自治の単位が生まれました。それは一体何でしょう?

★ヒント: 君の住んでいるところだと、最後に『〜けん』がつきますね!

「私は……けん?」

廃藩置県って確か、藩を廃止して県を置きましょうってやつじゃ……あっ!

私はぱんっと手を打つ。

「都道府県!」

「正解です!詳しく言えば『府県制度』ですね。藩という独立国のような状態を無くし、中央集権にするための、今の四十七都道府県に繋がる最重要改革なんです!」

(けん……って、滋賀県のことだったのか〜!四十七都道府県、小学生の時覚えさせられたんだよね……関東と九州がボロボロだった思い出がある)

「ちなみに最初は三府と二百二県だったんですよ」

「多すぎ!」

思わずツッコミを入れる。

明治さんによると、三府とは『東京・京都・大阪』のことらしい。

「当時の国民もそう思ったのか、多すぎ!という意見が相次ぎ、同年に藩統合されて三府と七十二県までシェイプアップしました」

それでも多い!!
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