日ノ本元号男子
第五章、未来へ

日ノ本元号会議

ここは応接間として使用する、会議室だ。そんな場所に十七人の人物が座っている。
「ひと通りみんなの事案に接触した訳だが、各々(おのおの)感じ取ることはあったと思う。意見も案も出てきただろう」
奈良がテーブルを囲んで座る参列者の顔を見渡す。
「日ノ本を守る者同士、やることは一つ。......これより、日ノ本元号会議を行う!」
普段まとまらない彼らが、これだけの面子(めんつ)が一堂に会する機会はごく稀だ。
奈良が話を切り出す。
「さて、カッコ良く決まったところで、まずは若人の第一印象はどうだっただろう?俺としては手元に置きたい人材だな」
「愉快な子やったねぇ。様々な事情に驚きつつも興味を示す純粋さはこれからも失われないでほしいわぁ」
声を上げたのは参列者の一人、四百年の歴史を誇る平安。
「おりゃあも愉快な子で安心したて思いよる!」
弥生が身を乗り出す。
「うんうん!」
大正も弥生の意見に乗っかるように手を挙げて笑った。
「僕は失望している」
鎌倉は腕を組んだまま、眉一つ動かさずに言った。
「彼女は軟弱だ。今すぐにでも肉体と精神を鍛え直す必要がある」
明治は顎に手を置き、言葉を選ぶ。
「好奇心旺盛なのは学業に必要な素質ですが......美空さんの場合、記憶を失っているとはいえ少々世間知らずなところもあります」
「若々しく初心(うぶ)な御人ですね!話しやすく、後の時代の空気的なものを感じ、感銘を受けたであります!」
「せやな。あづちゃんに乗っかるようで悪いけど、ああゆうノリは俺の時代にはおらんかったからなぁ」
「良い子だよね...」
「面白い子なのですよ!」
ひときわ騒がしい会議が続く中、テーブルの一角では南北ツインズがお茶菓子として出された羊羹を食べていた。
「お前らは意見を言わなくて良いのか?あと、今日はやけに静かだな」
「うん、僕はあまりないかなー。ほとんどみんなが言ってくれたから」
「俺も特に話したいことはない」
羊羹をもぐもぐ食べながら二人は話す。その二人を横目に見ながら、奈良はホワイトボードに『南北、以下同文』と書き加えていく。
そして、奈良は戦国に目を向けた。
「戦国は?」
「そうですわね。特にあの身の振り考えない様は、将来大物になる予感がしますわ」
「室町は?」
「甘味巡り美味しかった」
「言うと思った......」
平成がジト目で室町を見た。
「各々感じることは違っても、彼女に待ち受ける困難を除きたい!というのは同じ。そこで......若人の為、未来の為、奮闘する(じじい)共のチーム名を考えてみたぞ」
奈良は予め用意しておいた半紙を広げ、みんなに見えるように掲げる。
半紙には『爺会』と書かれていた。
洒落(しゃれ)ているでありますね!」
「爺会......ふふ」
「良いのかそれで!?確かに爺だけど!」
「ええんちゃう?」
「おりゃあ達も賛成ばい!」
「俺達は爺だし」
「爺......爺......」
繰り返されるその響きに、じわじわ笑いが広がる。
だが、そんな賛成多数の中、明らかに馴染んでない人物がいる。口をへの字に曲げて、不服そうな二人が悪態をつく。
「名付けセンスどこ置いてきたの?」
「ダッサ......まず、オレは爺じゃないし〜」
そう、大正と平成であった。
「平成は分かるけど、大正は爺だよ。諦めな」
「うわぁぁ!」
大正に現実を突き付ける室町。
「じゃあ、確認しよう」
奈良が全員の方を見て、手元の紙束をパラパラとめくる。
「若人を守るチーム『爺会』―――この名称で、賛成多数とみて良いな?」
「......異議あり!」
満を持して、大正が席を立ち上がる。
「異議?」
奈良が片眉を上げると、大正は勢いよく手を広げた。
「せめて名前だけでも、もう少し希望のあるものにしようよ!爺て......未来を担う存在を支える俺達が名乗る名前じゃない!」
「いや、そこは自虐(じぎゃく)と風格やで」
古墳が茶をすする。
「自虐は入れんで良か」
「じゃあ、代案はあるの?」と平成が言い、隣で大正がドヤ顔で笑った。
「もちろん!俺が考えたのは――」
彼が取り出したのは、なぜか事前に準備していたらしいスケッチブック。
その表紙をくるりとめくり、そこに現れた手書きの文字。
未来維新団(みらいいしんだん)
一瞬、微妙な空気が会議室を包む。
「中二感つよっ!!」
北朝が吹き出した。
「う〜ん、悪くないかもしれないですわ」
「センスは......嫌いじゃないであります」
戦国と安土桃山が必死にフォローを入れる。
「未来維新団......まぁ、響きはカッコ良いが......」
奈良が口を噤んだ。
「じゃあ、いっそのこと多数決にしましょうか」
明治が言うと、江戸も賛同するように頷いた。
「よし、では議題。『チーム名は爺会か未来維新団。どっちが良いか』」
奈良がホワイトボードに二つの選択肢を書き、手元のペンを持ち上げた。
「一人一票だぞー」
結果、やっぱり爺会が多かった。
結果発表後、奈良がホワイトボードに爺会と書き込んだ瞬間、会議室にはなんとも言えない安堵と諦めが入り混じった空気が流れた。
「結局、最初の案に戻ってきましたねぇ」
平安がくすりと笑う。
「はぁ......」
鎌倉が肩をすくめると、大正は机に突っ伏した。
「うぅ……未来維新団……俺の渾身(こんしん)のネーミングが……」
「オレ達、爺だって......」
大正と同じく平成がしょんぼりする。
「センスは良かったねぇ」
平安が突っ伏す大正の背中を撫でた。
「でも......平安さんも爺会に投票してたじゃん」
「それは、まぁ......実際に爺やからねぇ」
「やっぱり中二やったんや」
古墳が無意識でトドメを刺し、大正は「うぐっ」と小さくうめく。
「呼称より気になっていることがあるんだが......僕はこの顔ぶれで議論がまとまるとは到底思えないのだが」
「違いねぇ。年齢が近くても意見がまとまらねぇ時があるし」
「昭和、お前は何で漫画を読んでいる。会議中くらいは読むのを止めろ」
「そうカッカするなよ、この漫画貸そうか?」
「......後でな」
人の親切心を無下にしない男、それが鎌倉であった。
「明治、あれの解説を頼んだ」
ようやく静かになった頃、奈良が明治を指した。
「はーい」
明治はホワイトボードの前まで歩いて、説明し出す。
「我々は何度も同じ期間を繰り返しています。今はその真っ最中です。何故そんなことになっているのか、それはこの『令和』の時代において、国が存続できないような未来が来るからです」
数人は腕を組み、数人は顔を見合わせ、理解しきれずに首を傾げている。
奈良が眉をひそめて問いかけた。
「繰り返す?その辺、しっかりがっつり解説頼む」
明治は言葉を選ぶように、再び口を開いた。
「日ノ本は古来より厄災(やくさい)大国です。そして、厄災を回避できないまま滅亡の瞬間を迎えると、その国土全体が数年前から数百年前に戻ります。戻った時点で記憶はなくなりますし、死亡した人も生きている状態に戻っています。僕のような伝達人を除けば......」
「今回の伝達人は明治さん......だった訳ですわね」
「はい。伝達人は毎回ランダムです。前回は平成くんでしたよ」
「え、オレ!?」
平成が驚くその隣で、頬杖をついていた昭和が思い出すように言った。
「まぁ、世界大戦の時も助けてもらったからよぅなー」
「過去に戻るのは国力を消費しての有限のやり直しであり、力が尽きれば我々の歴史もそこで終わりです。だから、我々が一番快活(かいかつ)に動ける瞬間、全盛期を迎えた肉体に固定されるのでしょう」
「そんな突拍子のない話、僕は信じたくない。......信じたくはないが、そのような運命を彼女が辿るというのなら先輩として、先人として、やれることは全てやるしか僕にはできない」
鎌倉は頭を抱えながら言う。
「大正の時代にも大きな厄災(やくさい)......あったよね」
「......あったよ。確か十二年だったかな」
元寇(げんこう)の時は鎌倉さんが問答無用で追い返していましたわね」
戦国がくすくす笑いながら、再びお茶を淹れる。
「鉄砲伝来から僅か一年で国産化と量産化したのは戦国公だろう」
「南蛮の職人さんに感謝ですわ」
「普及したのは、小生の時代からであります!」
「そういや、日ノ本の歴史には戦が数多くあったよな。俺の時も内乱と反乱と疫病(えきびょう)がエグかったし」
「奈良の大仏って国をほぼ潰しかけたってネットでやってたんだけど、本当なの?」
何気ない平成の疑問に苦笑いしながら奈良は答えた。
「まぁ......そうだな。国家予算のほとんどを注ぎ込んだし......」
()(くに)との戦いよりも内戦が多いよね」
室町が茶菓子を食べながら頬杖をつく。
「戦の時には若人を連れて行かなかったんだな。戦国も城下町の散策だったし......」
「そうですわね。若者に戦を経験させたくない......というのが私の気持ちですわ」
「そうですねぇ」
平安も頷く。
「素人が合戦の傍にいても、何も良いことがない。参加するなら天幕(てんまく)の中で大人しくしておくべきだ」
「鎌倉さん、ストイック過ぎでしょ!」
平成が即座にツッコむ。
「美空、難儀(なんぎ)ばい」
「ん......」
「国家の存続の危機になるってことは、何度も起こってるってことやろ?成功例はないんか?」
「一応あるにはあるが、かなり少ないでしょうねぇ」
平安は会議を締めくくるように、ため息をついた。
< 23 / 32 >

この作品をシェア

pagetop