日ノ本元号男子
元号達とクリスマス会
「もう何回か寝て起きたら冬休みだぜ、冬休み」
「そら寒いわな」
除雪された雪が道端に寄せられ、靴底がきゅっと音を立てる。
「え、早くね?終わるじゃん今年。俺あんま遊んでねーわ」
「BBCでクリスマスソング流れたら今年のクライマックス感でるよね〜」
「そこは商店街にしろよ」
すかさず朱里の鋭いツッコミが私に飛んできた。
「去年のクリスマスにやったあれ面白かったよね!ユーチューバーごっこ」
健太が懐かしそうに思い出した。その言葉に、さっきコンビニで買ったばかりの熱々の豚まんを頬張りながら、私もあの動画のことを思い出す。
みんなでお揃いのジャージを着て、変な企画をするだけの、再生回数三十四の動画。
「やめろ、思い出すな」
朱里が真っ赤になって両耳を塞ぐ。確かに今思えば、あれは完全なる黒歴史確定ルートだった。
「で、今年は何して過ごす?」
私が歩きながら振り返って三人を見るが、全員が気まずそうにふいっと目を逸らした。え、何この妙な空気。
「あーごめん。俺、今年爺ちゃん家の工場の手伝いで……ほら、俺後継ぐじゃん?」
「ウチ、塾の冬期講習合宿。親が勝手に決めてて」
「俺は彼女とー♡……ってことはなく婆ちゃん家に遊びに行く」
蒼真は家の手伝い、朱里は冬期講習、健太はおばあちゃんの家に帰省。
「え゙え゙ー、今年のクリスマスみんな用事あんの!?」
「すまんな、強制だからよ」
「婆ちゃん家、徳島だからすぐ帰って来れねぇんだよ」
「俺みたいに働いているのがいるから、皆様の快適なクリスマスがあるんだぞー」
蒼真は食べかけのフランクフルトをくるくる回しながら言った。
その夜。
自室に戻った私は、寂しさを紛らわせるように明治さんに電話をかけた。
「明治さーん、こんばんは。少し早いですけどメリークリスマス!」
スーパーで買ってきた、プラスチック製の網靴下にお菓子が詰まった定番のやつを開封しながら声を弾ませる。
『お、やけに機嫌が良いですね。何か良いことでもありました?』
「あ、はい!使命ができたんですよ」
『使命?』
「私、クリスマスを廃止する黒き悪になります」
電話の向こう側で明治さんの『いきなり何言い出すの、美空さん!?』という驚きの声が聞こえる。
「クリスマス廃止を望む人達の声が聞こえて来るんです……」
『美空さん!大丈夫ですか!?何が聞こえるんですか!?』
さっきSNSに『我、クリスマスを廃止する者なり』って投稿したら、驚くほどの速度で共感のコメントが集まった。
『キラキラする街を見下ろしながらオフィスでコーヒーを飲んでいると泣けてくるんです。毎年です』
『クリスマスソングを聞くと死ぬ呪いにかかってるんです。共に廃止を目指しましょう!』
『ついでにバレンタインも廃止しましょう!』
などなど。
「クリスマスを廃止して、その代わりに『じゅんじゅん』をやります。聖なるじゅんじゅんを崇めよ崇めよ……滋賀県民は聖なる民とします。崇めよ崇めよ」
『駄目だ、妙なことになってる……』
明治さんが若干引いているが、気にしないでおく。
「何でですか!?じゅんじゅんは美味しいですよ!すき焼きみたいですよ!だからクリスマスを廃止します……」
『ちょっと待って下さいね。そうだ、今年のクリスマス、僕達と過ごしませんか?忘年会も兼ねて!』
〜クリスマス当日〜
「めっちゃ賑やかですね〜!」
今、私達は明治時代の東京に来ている。街中は着物姿の人や洋装の人が入り乱れ、もの凄い活気で溢れていた。
商店の軒先にある立て看板には、独特の筆体で『クリスマノ贈リ物、御用意』の文字。
「明治末期には、西洋のお祭りとして大衆に広く受け入れられるようになりましたからね」
「それにしても、こんな昔なのにクリスマスの広がり方が凄いですね」
「ええ、元々贈り物やお土産文化が盛んで、お祭り大好きな国柄、クリスマスは受け入れやすかったんですよ。プレゼントに靴下、ケーキにご馳走、クリスマスと言えば!っていうのも魅力的ですしね」
「確かに!」
しばらくレンガ造りの街並みを歩くと、明治さんは一際大きな建物の前で足を止めた。
「クリスマスをはじめ、様々な文化が集まり広がった場所が、みんなの憧れ―――百貨店です!」
「おー!めっちゃゴージャス!」
「高級品や新しい物が集まる場所ですから、内装も荘厳なのが多かったんですよ。という訳でさっそく中に入りましょう!百貨店は建築も豪華で……」
明治さんの言う通り、一歩足を踏み入れると、そこはまばゆいほどの高級感に満ちていた。
エントランスの正面には、天井に届きそうなほど大きな本物のモミの木のツリーが待ち構えており、店内全体がキラキラと美しく飾り付けされている。
(百貨店って大阪に行った時に見たことあるけど、実際に入ったことはないんだよね〜……)
「おーい!めりーくりすますだぞ、若人」
大広間へ向かう途中、前から手を振りながら歩いてくる人物がいた。奈良さんだ。今日はいつもの和装ではなく、仕立ての良いクラシカルな洋装に身を包んでいる。
「奈良さん!今日はよろしくお願いします!」
「まずは今年一年の労をねぎらいたいと思う。ありがとう、若人」
改めて言われると、何だか照れくさい。
「いや〜、頭空っぽなだけですよ〜」
「お前のそういう寛容かつ純粋なところは、今後とも失わずにいてほしい」
褒められると嬉しいね。
「……で、くりすます会!若人を元気にしようと張り切って計画立てたからな!俺も協力するぞ!」
奈良さんはそう言ってニカッと笑うと、近くにいた鎌倉さんと江戸くんに目を向けた。
「鎌倉と江戸!お前ら、庭木に詳しいだろ。若人と一緒に行ってくれ」
「……そうか」
「分かった……」
「では、ツリーとケーキの調達をお願いしますね」
「明治さん!?」
百貨店の一室には、ツリー用に用意された立派なモミの木の鉢植えがずらりと並べられている。その間を、なんとも言えない気まずい雰囲気で歩く。
鎌倉さんは腕を組んだまま、さっきからひと言も喋らない。威圧感がすごい。
一方の江戸くんも、積極的に自分から話しかけるタイプじゃないので無言を貫いている。
「植木に詳しいの?」
耐えかねて、私は少し話しやすそうな江戸くんに耳打ちして尋ねる。
すると、木々を眺めていた江戸くんが顔を上げ、口を開いた。
「詳しいよ。僕の時代は植木が流行したから。鎌倉さんは庭造りが得意だよ」
(え、すごっ……)
鎌倉さんに目を向ける。
「あの、鎌倉さん、植木に詳しいということで……モミの木の目利きをお願い出来たら」
「…………」
(何この無言。鎌倉さん、何考えているか分からない!!)
焦る私を前に、鎌倉さんはおもむろに口を開いた。
「……頼朝公は石橋山の戦いの時、天候の悪さから味方と敵の旗を間違えてあっさり敗北してしまったことがある!」
「……え、あ、はい!そうなんですか!?」
(急に歴史の話!?)
石橋山の戦いは平安時代末期に起きて、その後の鎌倉幕府設立に繋がっていく戦いなんだって。
そんな私達の様子を、少し離れた柱の陰から奈良さんと明治さんがそっと見守っていた。
「まさかここで源氏の面白失敗談が来るとは……」
「ああ見えて面倒見が良いからな。元気づけようとしたんだろ」
「不器用ゆえに勘違いされやすい方ですよね」
それから数分後。
「これが良い」と、鎌倉さんと江戸くんが示し合わせたわけでもないのに、全く同じモミの木を同時に指差した。さすが職人肌の二人、息はぴったり。
「良いモミの木が見つかって良かったですね」
「はい!」
無事に木が決まり、鎌倉さんと別れて江戸くん、明治さんと一緒に廊下を歩いていると、前方に不思議な光景が見えてきた。
台車の上にちょこんと乗っている縄文くんと古墳くん。そして、その台車をものすごい勢いで押している弥生くんと飛鳥くん。
「縄文くん、弥生くん、古墳くん、飛鳥くん、メリークリスマス!」
声をかけると、四人は車輪のついた台車に目を輝かせながら口々に言った。
「あ、嬢ちゃん。これ凄いんやで!」
「楽に人を運べるでありますよー!」
「これで土偶の運搬も楽になるね」
「おりゃあも初めて見たばい!」
四人は口々に台車の感想を述べる。どうやら人や物を運ぶ便利な椅子だと思っているようだ。……台車の用途としてはあながち間違ってはいないけど、ちょっとシュールすぎる。
次に見つけたのは、室町くんと安土桃山くんと大正くん。
「僕と安土桃山の御用達の料亭からの仕出しだよ」
「豪華絢爛。小生の好きな四字熟語であります!」
「美空っち、メリークリスマス!ケーキは平安さんと戦国さんだから期待していて良いよ!」
笑顔の大正くんの言葉に胸を躍らせながら、私達は一階の特設ケーキ売り場へと向かった。
きらびやかなショーケースの中には、色とりどりの美しいケーキが並べられており、その前には見覚えのある二人の人影があった。
「あ、美空さん。ケーキの手配は私達で済ませておきましてよ。甘味で元気を出してもらおうと」
「戦国が凄いの用意してくれましてねぇ」
平安さんは店員さんから受け取った上品な箱を、そっと私に見せてくれた。
箱を開けると、そこには真っ白な生クリームの海に、真っ赤なイチゴがこれでもかと乗った大ぶりのショートケーキが入っていた。チョコレートのプレートには、綺麗な白いチョコペンで『Merry Christmas』の文字が躍り、ちょこんとした可愛いチョコのサンタが乗っている。
「うわぁ!めっちゃ豪華!」
「馴染みのある柔らかいスポンジと生クリームのショートケーキは日本独自のスタイルで、外国ではジャパニーズショートケーキと呼ばれていて―――」
「明治はうんちくを語る時、生き生きしてるね」
そっと江戸くんが呟いた。
それから、会場となる最上階の広大な食堂へ移動し、みんなで飾り付けを開始した。(なんと貸し切りなんだよ!)
「百貨店と言えば高級感溢れる大食堂!ここを貸し切るなんて、子供の頃一度してみたかったんです」
明治さんの説明を聞きながら、会場をぐるりと見渡すと、ツリーの前で何やら話し込んでいる古代組を見つけた。
ツリーには靴下や星だけを吊るす予定だったのだが、弥生くんが折り紙で折ったやつも飾り付けしよう!と言い出したので、折り紙も飾ることにした。
「楽しみやなぁ!」
「次は手裏剣を折ろうよ」
「国使さん達も吊るしてあげるのですよー!」
うっきうきで持っていた国使さん人形の首に糸を巻いていく飛鳥くん。正直言って、怖い。
「おりゃあ、それ怖いばい」
「私も怖い……」
ヒソヒソと弥生くんと話していると、「何が?」とでも言いたげにこちらを振り向く飛鳥くん。その後、なんとか説得することができ、国使さん人形を糸で巻かずにツリーの木の枝の隙間にそのままガシッとぶっ刺すという方針で落ち着いた。
「……で、一旦除霊でも受けた方が良さそうなクリスマスツリーができてしまったと……」
「はい」
禍々しいオーラを放つツリーを見上げながら、明治さんが頭を抱えて額を指で摘んだ。
隣では平成くんが「これマジでヤバくね?」とスマホを片手にツリーの動画をめちゃくちゃ撮っている。当の古代組の六人は「まあ、こんな感じか!」と満足げにツリーを見上げていた。
「平安さんに頼んだら除霊できますか?」
「そうですね、後で頼んでみましょうか」
ちなみに、平安さんはその横で、非常に美しい上品な折り鶴をツリーにぶら下げてくれている。
ここで、完成したカオスなツリーの飾りを一部紹介したいと思います。
【折り鶴、土偶、国使さん人形、ミニ大仏、五円玉、お札、熱で溶けかかっているロウソク……などなど】
「神社仏閣の集合体じゃん」
「まぁまぁ、楽しめたら良いじゃないか!よし、飾り終えたらお待ちかねのご馳走だぞ!」
促されてテーブルの方に移動すると、そこには目を見張るような豪勢な料理がずらりと並んでいた。
こんがり焼けた大きな七面鳥に、じっくり煮込まれたビーフシチュー、そしてなぜか大皿に盛られたお寿司まで並べられており、まさに時代を超えた大宴会だ。
「嬉しすぎて泣きそう……」
「そんなに嬉しいの……?」
じわっと浮かんだ嬉し涙を拭う私を、江戸くんが不思議そうに見つめてくる。
「テーブルいっぱいのご馳走って、貴族になった気分!」
「……そう」
「えーっとね、美空ちゃん」
ツリーの横から、南朝くんがもじもじしながら声をかけてきた。少し気まずそうに下を向いている。
「どうしたの?」
すると、隣にいた北朝くんが腕を組んで助け舟を出してくれた。
「宴会って言ったら酒が必須なところがあってな……美空の思うロマンティックなクリスマスとは違う気もするんだが……それでも良いか?もちろん飲まない人いるから」
北朝くんの言葉に南朝くんが「何百年前生まれのおっさんの飲み会化するから……」と自虐も込めて言う。
それぞれ好きな席に座り、奈良さんの挨拶を待つ。
「嫌な物は全部今年に置いていって、成長と好奇心は来年に持って行こう!来年もよろしくってことで、乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」」」」」」
奈良さんがグラスを持ち上げたのを合図に、高々と持ち上げて乾杯をする。
私のグラスの中には、みかん味の炭酸飲料。
私以外にも、お酒を飲まない非飲酒組はチラホラいる。
縄文くんから飛鳥くんに至る上古組、南北ツインズ、大正くんと平成くんは私と同じジュースを美味しそうに飲んでいるし、平安さんと戦国さんと江戸くんと明治さんに至っては、ご馳走を前に温かい緑茶をすすってほっこりしている。
みんな、それぞれ思い思いに箸を伸ばし始めた。
「マグロ美味しい!」
「んん〜!うまかー!」
「これ、フグ?」
「フグって江戸の時は禁止されていましたよね?」
私の疑問に、江戸くんが醤油をつけながら答える。
「まあ、毒があるからね。お上も命を大事にしろってことで食べるのを禁止していたんだよ。だから逆に、当時は安く隠れて買えたんだ」
フグに箸を伸ばしかけていた私と弥生くん、そして南朝くんの動きがピタッと止まる。
「ちゃんと毒抜きしてるから大丈夫だよ」
「フグが一般的に食べれるようになったのは明治時代からやっけ?」
古墳くんが、もぐもぐとシチューを食べながら明治さんに尋ねた。
「そうですよ。初代総理大臣の伊藤さんが下関を訪れた際にフグの美味しさに感動して、『フグ食解禁』に大いに力を尽くしたんです」
「てか、なんでこんなにデカイの?」
平成くんが、お皿に乗ったお寿司をまじまじと見つめながら呟いた。
確かに、目の前にあるお寿司は、現代のものに比べておにぎりの上にドカンと刺身が乗っているような規格外の大きさだ。
「江戸の町には肉体労働者が増えたんだ。素早くお腹を満たすためにこういう形が生まれたんだろうね。屋台とかだとこの大きさで一貫六文だよ」
(一文大体二十五円だから、これ一個で百八十円……)
「安っ」
あと屋台に売ってるから手軽に買えるのでは!?
「下魚だけど、そこは目を瞑ってね」
「あの……さっきから言ってる下魚って?」
「そうそう、下魚って言う割には、フグとかマグロとか最高級のネタが置かれてるよね〜」
下魚とは、格付けで一番下の魚のことを指す。平成くんの指摘通り、現代ではマグロもフグも高級魚のイメージしかない。
「料理書にも書いてるよ。見てみな」
江戸くんが懐から取り出した当時の料理書の写しには、上魚、中魚、下魚という枠組みがあり、その一番下の『下魚』の欄に、確かにフグやマグロの名前がハッキリと書かれていた。
「どれも脂が乗ってるから痛みやすいんだよ」
(へ〜、やっぱり時代によって食べ物の価値は変わるんだ)
「こんなに沢山、食べ切れるかな……?」
「食べれるよ。残った物は明日に回せば良いし」
江戸くんが優しく微笑む。そういえば、さっきから江戸くんの方から自然に話しかけてくれることが増えた気がする。これって、少しずつ仲良くなれてるって思っても良いのかな?
嬉しくなって江戸くんを見つめていると、彼は怪訝そうに眉をひそめた。
「……何その顔」
「え!?」
うそ、顔に何か付いている!?
「ニヤニヤしているけど……」
江戸くんに指摘され、バッと顔を手で覆う。
その時、バカ四天王のグループメッセージからピコンと通知が届く。
―――美空、めりくりー!一生分くらい勉強してるわ、ウケる
―――メリクリ〜!婆ちゃん家のコタツなう!正月空いてるから遊ぼ〜
―――工場長だぞ、凄くね?働く?
「うぅ……みんな離れていても心は傍にいるんだね……」
「え、何、どうしたの?怖いんだけど」
急に涙を流し出す私を横目に江戸くんは露骨に引いた目をする。
「だって、みんな……うぅ……」
「本当にどうしたの……?」
江戸くんは本気で驚きつつも、呆れたようにため息をつき、着物の袂からそっと綺麗なハンカチを差し出してくれた。
「ほら、拭きなよ。せっかくの祝い事の前で泣かないでよ」
ハンカチを受け取って鼻をすん、と鳴らしながら涙を拭う。
「ありがとう、江戸くん」
「別に……」
そっぽを向いてしまった、今度はほんの少しだけ口元が緩んでいた。
そして、その一連のやり取りを対面から見ていた平成くんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「はは〜ん、オレ分かっちゃった」
「何が」
「江戸、もしかして照れて―――」
ゴホン!
江戸くんの大きな咳払いで、平成くんの言葉が消えちゃった。
すると大正くんも探偵みたいに考え込み、首を左右に振る。(さすが推理小説の先駆け、江戸川乱歩さんが名を上げた時代!)
「いいや、謎は気になるよね。つまり!江戸は美空っちのことがす―――」
ゴホンゴホン!
今度はさっきよりも明らかに激しく、必死な咳の連打。
「江戸くん!?」
(そんな咳したら喉痛くなるよ……?)
「だ、大丈夫?」
「大丈夫」
江戸くんの声量が急に二割り増しになった。
そんな私達のバタバタ劇を横目で見ていた昭和くんは、さっきから肩をぷるぷると震わせている。どうやら声を押し殺して大爆笑しているらしい。
「御寮人は人気者だな!」
賑やかだったクリスマス会も終わり、自分の部屋のベッドにゴロンと横になった時、ピロンと静かに通知音が鳴った。
個人メッセージで委員長からだった。
―――怖ぇよ!何だよあの呟き!これでもやるから喜べよ!
添付されたのは本屋さんの五百円分のギフトカードだった。
(クリスマスって良いなぁ……クリスマス廃止派のみんなも良いクリスマスを……)
「そら寒いわな」
除雪された雪が道端に寄せられ、靴底がきゅっと音を立てる。
「え、早くね?終わるじゃん今年。俺あんま遊んでねーわ」
「BBCでクリスマスソング流れたら今年のクライマックス感でるよね〜」
「そこは商店街にしろよ」
すかさず朱里の鋭いツッコミが私に飛んできた。
「去年のクリスマスにやったあれ面白かったよね!ユーチューバーごっこ」
健太が懐かしそうに思い出した。その言葉に、さっきコンビニで買ったばかりの熱々の豚まんを頬張りながら、私もあの動画のことを思い出す。
みんなでお揃いのジャージを着て、変な企画をするだけの、再生回数三十四の動画。
「やめろ、思い出すな」
朱里が真っ赤になって両耳を塞ぐ。確かに今思えば、あれは完全なる黒歴史確定ルートだった。
「で、今年は何して過ごす?」
私が歩きながら振り返って三人を見るが、全員が気まずそうにふいっと目を逸らした。え、何この妙な空気。
「あーごめん。俺、今年爺ちゃん家の工場の手伝いで……ほら、俺後継ぐじゃん?」
「ウチ、塾の冬期講習合宿。親が勝手に決めてて」
「俺は彼女とー♡……ってことはなく婆ちゃん家に遊びに行く」
蒼真は家の手伝い、朱里は冬期講習、健太はおばあちゃんの家に帰省。
「え゙え゙ー、今年のクリスマスみんな用事あんの!?」
「すまんな、強制だからよ」
「婆ちゃん家、徳島だからすぐ帰って来れねぇんだよ」
「俺みたいに働いているのがいるから、皆様の快適なクリスマスがあるんだぞー」
蒼真は食べかけのフランクフルトをくるくる回しながら言った。
その夜。
自室に戻った私は、寂しさを紛らわせるように明治さんに電話をかけた。
「明治さーん、こんばんは。少し早いですけどメリークリスマス!」
スーパーで買ってきた、プラスチック製の網靴下にお菓子が詰まった定番のやつを開封しながら声を弾ませる。
『お、やけに機嫌が良いですね。何か良いことでもありました?』
「あ、はい!使命ができたんですよ」
『使命?』
「私、クリスマスを廃止する黒き悪になります」
電話の向こう側で明治さんの『いきなり何言い出すの、美空さん!?』という驚きの声が聞こえる。
「クリスマス廃止を望む人達の声が聞こえて来るんです……」
『美空さん!大丈夫ですか!?何が聞こえるんですか!?』
さっきSNSに『我、クリスマスを廃止する者なり』って投稿したら、驚くほどの速度で共感のコメントが集まった。
『キラキラする街を見下ろしながらオフィスでコーヒーを飲んでいると泣けてくるんです。毎年です』
『クリスマスソングを聞くと死ぬ呪いにかかってるんです。共に廃止を目指しましょう!』
『ついでにバレンタインも廃止しましょう!』
などなど。
「クリスマスを廃止して、その代わりに『じゅんじゅん』をやります。聖なるじゅんじゅんを崇めよ崇めよ……滋賀県民は聖なる民とします。崇めよ崇めよ」
『駄目だ、妙なことになってる……』
明治さんが若干引いているが、気にしないでおく。
「何でですか!?じゅんじゅんは美味しいですよ!すき焼きみたいですよ!だからクリスマスを廃止します……」
『ちょっと待って下さいね。そうだ、今年のクリスマス、僕達と過ごしませんか?忘年会も兼ねて!』
〜クリスマス当日〜
「めっちゃ賑やかですね〜!」
今、私達は明治時代の東京に来ている。街中は着物姿の人や洋装の人が入り乱れ、もの凄い活気で溢れていた。
商店の軒先にある立て看板には、独特の筆体で『クリスマノ贈リ物、御用意』の文字。
「明治末期には、西洋のお祭りとして大衆に広く受け入れられるようになりましたからね」
「それにしても、こんな昔なのにクリスマスの広がり方が凄いですね」
「ええ、元々贈り物やお土産文化が盛んで、お祭り大好きな国柄、クリスマスは受け入れやすかったんですよ。プレゼントに靴下、ケーキにご馳走、クリスマスと言えば!っていうのも魅力的ですしね」
「確かに!」
しばらくレンガ造りの街並みを歩くと、明治さんは一際大きな建物の前で足を止めた。
「クリスマスをはじめ、様々な文化が集まり広がった場所が、みんなの憧れ―――百貨店です!」
「おー!めっちゃゴージャス!」
「高級品や新しい物が集まる場所ですから、内装も荘厳なのが多かったんですよ。という訳でさっそく中に入りましょう!百貨店は建築も豪華で……」
明治さんの言う通り、一歩足を踏み入れると、そこはまばゆいほどの高級感に満ちていた。
エントランスの正面には、天井に届きそうなほど大きな本物のモミの木のツリーが待ち構えており、店内全体がキラキラと美しく飾り付けされている。
(百貨店って大阪に行った時に見たことあるけど、実際に入ったことはないんだよね〜……)
「おーい!めりーくりすますだぞ、若人」
大広間へ向かう途中、前から手を振りながら歩いてくる人物がいた。奈良さんだ。今日はいつもの和装ではなく、仕立ての良いクラシカルな洋装に身を包んでいる。
「奈良さん!今日はよろしくお願いします!」
「まずは今年一年の労をねぎらいたいと思う。ありがとう、若人」
改めて言われると、何だか照れくさい。
「いや〜、頭空っぽなだけですよ〜」
「お前のそういう寛容かつ純粋なところは、今後とも失わずにいてほしい」
褒められると嬉しいね。
「……で、くりすます会!若人を元気にしようと張り切って計画立てたからな!俺も協力するぞ!」
奈良さんはそう言ってニカッと笑うと、近くにいた鎌倉さんと江戸くんに目を向けた。
「鎌倉と江戸!お前ら、庭木に詳しいだろ。若人と一緒に行ってくれ」
「……そうか」
「分かった……」
「では、ツリーとケーキの調達をお願いしますね」
「明治さん!?」
百貨店の一室には、ツリー用に用意された立派なモミの木の鉢植えがずらりと並べられている。その間を、なんとも言えない気まずい雰囲気で歩く。
鎌倉さんは腕を組んだまま、さっきからひと言も喋らない。威圧感がすごい。
一方の江戸くんも、積極的に自分から話しかけるタイプじゃないので無言を貫いている。
「植木に詳しいの?」
耐えかねて、私は少し話しやすそうな江戸くんに耳打ちして尋ねる。
すると、木々を眺めていた江戸くんが顔を上げ、口を開いた。
「詳しいよ。僕の時代は植木が流行したから。鎌倉さんは庭造りが得意だよ」
(え、すごっ……)
鎌倉さんに目を向ける。
「あの、鎌倉さん、植木に詳しいということで……モミの木の目利きをお願い出来たら」
「…………」
(何この無言。鎌倉さん、何考えているか分からない!!)
焦る私を前に、鎌倉さんはおもむろに口を開いた。
「……頼朝公は石橋山の戦いの時、天候の悪さから味方と敵の旗を間違えてあっさり敗北してしまったことがある!」
「……え、あ、はい!そうなんですか!?」
(急に歴史の話!?)
石橋山の戦いは平安時代末期に起きて、その後の鎌倉幕府設立に繋がっていく戦いなんだって。
そんな私達の様子を、少し離れた柱の陰から奈良さんと明治さんがそっと見守っていた。
「まさかここで源氏の面白失敗談が来るとは……」
「ああ見えて面倒見が良いからな。元気づけようとしたんだろ」
「不器用ゆえに勘違いされやすい方ですよね」
それから数分後。
「これが良い」と、鎌倉さんと江戸くんが示し合わせたわけでもないのに、全く同じモミの木を同時に指差した。さすが職人肌の二人、息はぴったり。
「良いモミの木が見つかって良かったですね」
「はい!」
無事に木が決まり、鎌倉さんと別れて江戸くん、明治さんと一緒に廊下を歩いていると、前方に不思議な光景が見えてきた。
台車の上にちょこんと乗っている縄文くんと古墳くん。そして、その台車をものすごい勢いで押している弥生くんと飛鳥くん。
「縄文くん、弥生くん、古墳くん、飛鳥くん、メリークリスマス!」
声をかけると、四人は車輪のついた台車に目を輝かせながら口々に言った。
「あ、嬢ちゃん。これ凄いんやで!」
「楽に人を運べるでありますよー!」
「これで土偶の運搬も楽になるね」
「おりゃあも初めて見たばい!」
四人は口々に台車の感想を述べる。どうやら人や物を運ぶ便利な椅子だと思っているようだ。……台車の用途としてはあながち間違ってはいないけど、ちょっとシュールすぎる。
次に見つけたのは、室町くんと安土桃山くんと大正くん。
「僕と安土桃山の御用達の料亭からの仕出しだよ」
「豪華絢爛。小生の好きな四字熟語であります!」
「美空っち、メリークリスマス!ケーキは平安さんと戦国さんだから期待していて良いよ!」
笑顔の大正くんの言葉に胸を躍らせながら、私達は一階の特設ケーキ売り場へと向かった。
きらびやかなショーケースの中には、色とりどりの美しいケーキが並べられており、その前には見覚えのある二人の人影があった。
「あ、美空さん。ケーキの手配は私達で済ませておきましてよ。甘味で元気を出してもらおうと」
「戦国が凄いの用意してくれましてねぇ」
平安さんは店員さんから受け取った上品な箱を、そっと私に見せてくれた。
箱を開けると、そこには真っ白な生クリームの海に、真っ赤なイチゴがこれでもかと乗った大ぶりのショートケーキが入っていた。チョコレートのプレートには、綺麗な白いチョコペンで『Merry Christmas』の文字が躍り、ちょこんとした可愛いチョコのサンタが乗っている。
「うわぁ!めっちゃ豪華!」
「馴染みのある柔らかいスポンジと生クリームのショートケーキは日本独自のスタイルで、外国ではジャパニーズショートケーキと呼ばれていて―――」
「明治はうんちくを語る時、生き生きしてるね」
そっと江戸くんが呟いた。
それから、会場となる最上階の広大な食堂へ移動し、みんなで飾り付けを開始した。(なんと貸し切りなんだよ!)
「百貨店と言えば高級感溢れる大食堂!ここを貸し切るなんて、子供の頃一度してみたかったんです」
明治さんの説明を聞きながら、会場をぐるりと見渡すと、ツリーの前で何やら話し込んでいる古代組を見つけた。
ツリーには靴下や星だけを吊るす予定だったのだが、弥生くんが折り紙で折ったやつも飾り付けしよう!と言い出したので、折り紙も飾ることにした。
「楽しみやなぁ!」
「次は手裏剣を折ろうよ」
「国使さん達も吊るしてあげるのですよー!」
うっきうきで持っていた国使さん人形の首に糸を巻いていく飛鳥くん。正直言って、怖い。
「おりゃあ、それ怖いばい」
「私も怖い……」
ヒソヒソと弥生くんと話していると、「何が?」とでも言いたげにこちらを振り向く飛鳥くん。その後、なんとか説得することができ、国使さん人形を糸で巻かずにツリーの木の枝の隙間にそのままガシッとぶっ刺すという方針で落ち着いた。
「……で、一旦除霊でも受けた方が良さそうなクリスマスツリーができてしまったと……」
「はい」
禍々しいオーラを放つツリーを見上げながら、明治さんが頭を抱えて額を指で摘んだ。
隣では平成くんが「これマジでヤバくね?」とスマホを片手にツリーの動画をめちゃくちゃ撮っている。当の古代組の六人は「まあ、こんな感じか!」と満足げにツリーを見上げていた。
「平安さんに頼んだら除霊できますか?」
「そうですね、後で頼んでみましょうか」
ちなみに、平安さんはその横で、非常に美しい上品な折り鶴をツリーにぶら下げてくれている。
ここで、完成したカオスなツリーの飾りを一部紹介したいと思います。
【折り鶴、土偶、国使さん人形、ミニ大仏、五円玉、お札、熱で溶けかかっているロウソク……などなど】
「神社仏閣の集合体じゃん」
「まぁまぁ、楽しめたら良いじゃないか!よし、飾り終えたらお待ちかねのご馳走だぞ!」
促されてテーブルの方に移動すると、そこには目を見張るような豪勢な料理がずらりと並んでいた。
こんがり焼けた大きな七面鳥に、じっくり煮込まれたビーフシチュー、そしてなぜか大皿に盛られたお寿司まで並べられており、まさに時代を超えた大宴会だ。
「嬉しすぎて泣きそう……」
「そんなに嬉しいの……?」
じわっと浮かんだ嬉し涙を拭う私を、江戸くんが不思議そうに見つめてくる。
「テーブルいっぱいのご馳走って、貴族になった気分!」
「……そう」
「えーっとね、美空ちゃん」
ツリーの横から、南朝くんがもじもじしながら声をかけてきた。少し気まずそうに下を向いている。
「どうしたの?」
すると、隣にいた北朝くんが腕を組んで助け舟を出してくれた。
「宴会って言ったら酒が必須なところがあってな……美空の思うロマンティックなクリスマスとは違う気もするんだが……それでも良いか?もちろん飲まない人いるから」
北朝くんの言葉に南朝くんが「何百年前生まれのおっさんの飲み会化するから……」と自虐も込めて言う。
それぞれ好きな席に座り、奈良さんの挨拶を待つ。
「嫌な物は全部今年に置いていって、成長と好奇心は来年に持って行こう!来年もよろしくってことで、乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」」」」」」
奈良さんがグラスを持ち上げたのを合図に、高々と持ち上げて乾杯をする。
私のグラスの中には、みかん味の炭酸飲料。
私以外にも、お酒を飲まない非飲酒組はチラホラいる。
縄文くんから飛鳥くんに至る上古組、南北ツインズ、大正くんと平成くんは私と同じジュースを美味しそうに飲んでいるし、平安さんと戦国さんと江戸くんと明治さんに至っては、ご馳走を前に温かい緑茶をすすってほっこりしている。
みんな、それぞれ思い思いに箸を伸ばし始めた。
「マグロ美味しい!」
「んん〜!うまかー!」
「これ、フグ?」
「フグって江戸の時は禁止されていましたよね?」
私の疑問に、江戸くんが醤油をつけながら答える。
「まあ、毒があるからね。お上も命を大事にしろってことで食べるのを禁止していたんだよ。だから逆に、当時は安く隠れて買えたんだ」
フグに箸を伸ばしかけていた私と弥生くん、そして南朝くんの動きがピタッと止まる。
「ちゃんと毒抜きしてるから大丈夫だよ」
「フグが一般的に食べれるようになったのは明治時代からやっけ?」
古墳くんが、もぐもぐとシチューを食べながら明治さんに尋ねた。
「そうですよ。初代総理大臣の伊藤さんが下関を訪れた際にフグの美味しさに感動して、『フグ食解禁』に大いに力を尽くしたんです」
「てか、なんでこんなにデカイの?」
平成くんが、お皿に乗ったお寿司をまじまじと見つめながら呟いた。
確かに、目の前にあるお寿司は、現代のものに比べておにぎりの上にドカンと刺身が乗っているような規格外の大きさだ。
「江戸の町には肉体労働者が増えたんだ。素早くお腹を満たすためにこういう形が生まれたんだろうね。屋台とかだとこの大きさで一貫六文だよ」
(一文大体二十五円だから、これ一個で百八十円……)
「安っ」
あと屋台に売ってるから手軽に買えるのでは!?
「下魚だけど、そこは目を瞑ってね」
「あの……さっきから言ってる下魚って?」
「そうそう、下魚って言う割には、フグとかマグロとか最高級のネタが置かれてるよね〜」
下魚とは、格付けで一番下の魚のことを指す。平成くんの指摘通り、現代ではマグロもフグも高級魚のイメージしかない。
「料理書にも書いてるよ。見てみな」
江戸くんが懐から取り出した当時の料理書の写しには、上魚、中魚、下魚という枠組みがあり、その一番下の『下魚』の欄に、確かにフグやマグロの名前がハッキリと書かれていた。
「どれも脂が乗ってるから痛みやすいんだよ」
(へ〜、やっぱり時代によって食べ物の価値は変わるんだ)
「こんなに沢山、食べ切れるかな……?」
「食べれるよ。残った物は明日に回せば良いし」
江戸くんが優しく微笑む。そういえば、さっきから江戸くんの方から自然に話しかけてくれることが増えた気がする。これって、少しずつ仲良くなれてるって思っても良いのかな?
嬉しくなって江戸くんを見つめていると、彼は怪訝そうに眉をひそめた。
「……何その顔」
「え!?」
うそ、顔に何か付いている!?
「ニヤニヤしているけど……」
江戸くんに指摘され、バッと顔を手で覆う。
その時、バカ四天王のグループメッセージからピコンと通知が届く。
―――美空、めりくりー!一生分くらい勉強してるわ、ウケる
―――メリクリ〜!婆ちゃん家のコタツなう!正月空いてるから遊ぼ〜
―――工場長だぞ、凄くね?働く?
「うぅ……みんな離れていても心は傍にいるんだね……」
「え、何、どうしたの?怖いんだけど」
急に涙を流し出す私を横目に江戸くんは露骨に引いた目をする。
「だって、みんな……うぅ……」
「本当にどうしたの……?」
江戸くんは本気で驚きつつも、呆れたようにため息をつき、着物の袂からそっと綺麗なハンカチを差し出してくれた。
「ほら、拭きなよ。せっかくの祝い事の前で泣かないでよ」
ハンカチを受け取って鼻をすん、と鳴らしながら涙を拭う。
「ありがとう、江戸くん」
「別に……」
そっぽを向いてしまった、今度はほんの少しだけ口元が緩んでいた。
そして、その一連のやり取りを対面から見ていた平成くんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「はは〜ん、オレ分かっちゃった」
「何が」
「江戸、もしかして照れて―――」
ゴホン!
江戸くんの大きな咳払いで、平成くんの言葉が消えちゃった。
すると大正くんも探偵みたいに考え込み、首を左右に振る。(さすが推理小説の先駆け、江戸川乱歩さんが名を上げた時代!)
「いいや、謎は気になるよね。つまり!江戸は美空っちのことがす―――」
ゴホンゴホン!
今度はさっきよりも明らかに激しく、必死な咳の連打。
「江戸くん!?」
(そんな咳したら喉痛くなるよ……?)
「だ、大丈夫?」
「大丈夫」
江戸くんの声量が急に二割り増しになった。
そんな私達のバタバタ劇を横目で見ていた昭和くんは、さっきから肩をぷるぷると震わせている。どうやら声を押し殺して大爆笑しているらしい。
「御寮人は人気者だな!」
賑やかだったクリスマス会も終わり、自分の部屋のベッドにゴロンと横になった時、ピロンと静かに通知音が鳴った。
個人メッセージで委員長からだった。
―――怖ぇよ!何だよあの呟き!これでもやるから喜べよ!
添付されたのは本屋さんの五百円分のギフトカードだった。
(クリスマスって良いなぁ……クリスマス廃止派のみんなも良いクリスマスを……)