すき、という名前の花
そのとき——
カラン、と鈴の音がやわらかく響いた。
Aはハッとして振り返る。
誰かが、ドアを開けてこの場所に入ってきたようだった。
「こんにちは」
控えめで、どこか懐かしさのにじむ声。
音のひとつひとつが、耳の奥でふわりと揺れた。
そこに立っていたのは、ひとりの女の子。
肩までのショートヘアに、高校の制服。
年齢は……おそらく、自分と同じくらい。
けれどAにとって、その「こんにちは」は——
音楽のように聞こえた。
美しくて、不思議で、でも意味のわからない響きだった。
目が合った。
くるんとカールのかかったまつげ。
くっきりとした二重まぶたに、すっと通った小さな鼻。
そして、ぽつんとした口元。
全部が、写真の中の誰かみたいに、整っていた。
現実感がなくて、まるで夢を見ているようだった。
Aは慌てて目を逸らした。
こんなふうに人と長く見つめ合ったことなんて、なかったから。
けれど、ほんの一瞬だけ——
彼女が、にこっと微笑んだ気がした。
「はじめまして!」
ことばの意味は、やっぱりわからない。
でも、自分に向かって言われたのだということだけは、不思議と伝わってきた。
彼女が小首を傾げて、じっとこちらを見てくる。
その視線に戸惑いながら、Aはポケットからスマートフォンを取り出した。
焦るように画面に絵文字を打ち込む。
「😃」
彼女は、少し困ったような顔をした。
……伝わってない?
そう思って、もう一度。
「😃」と、画面を差し出す。
彼女は、やっぱり少し戸惑ったように笑った。
「……どうして、靴履いてないの?」
彼女が指をさす。
Aは視線を落として、ようやく気がついた。
靴を……履いてない。
恥ずかしさが込み上げて、胸がぎゅっとなる。
顔が熱くなるのを、なんとか深呼吸でごまかした。
彼女を見ると、優しく笑っていた。
今まで気づかなかったけれど——
笑うと、控えめな八重歯が顔をのぞかせる。
その笑顔は、やわらかくて、やさしくて。
でもその奥には、ほんの少しだけ、困惑が隠れていた。
カラン、と鈴の音がやわらかく響いた。
Aはハッとして振り返る。
誰かが、ドアを開けてこの場所に入ってきたようだった。
「こんにちは」
控えめで、どこか懐かしさのにじむ声。
音のひとつひとつが、耳の奥でふわりと揺れた。
そこに立っていたのは、ひとりの女の子。
肩までのショートヘアに、高校の制服。
年齢は……おそらく、自分と同じくらい。
けれどAにとって、その「こんにちは」は——
音楽のように聞こえた。
美しくて、不思議で、でも意味のわからない響きだった。
目が合った。
くるんとカールのかかったまつげ。
くっきりとした二重まぶたに、すっと通った小さな鼻。
そして、ぽつんとした口元。
全部が、写真の中の誰かみたいに、整っていた。
現実感がなくて、まるで夢を見ているようだった。
Aは慌てて目を逸らした。
こんなふうに人と長く見つめ合ったことなんて、なかったから。
けれど、ほんの一瞬だけ——
彼女が、にこっと微笑んだ気がした。
「はじめまして!」
ことばの意味は、やっぱりわからない。
でも、自分に向かって言われたのだということだけは、不思議と伝わってきた。
彼女が小首を傾げて、じっとこちらを見てくる。
その視線に戸惑いながら、Aはポケットからスマートフォンを取り出した。
焦るように画面に絵文字を打ち込む。
「😃」
彼女は、少し困ったような顔をした。
……伝わってない?
そう思って、もう一度。
「😃」と、画面を差し出す。
彼女は、やっぱり少し戸惑ったように笑った。
「……どうして、靴履いてないの?」
彼女が指をさす。
Aは視線を落として、ようやく気がついた。
靴を……履いてない。
恥ずかしさが込み上げて、胸がぎゅっとなる。
顔が熱くなるのを、なんとか深呼吸でごまかした。
彼女を見ると、優しく笑っていた。
今まで気づかなかったけれど——
笑うと、控えめな八重歯が顔をのぞかせる。
その笑顔は、やわらかくて、やさしくて。
でもその奥には、ほんの少しだけ、困惑が隠れていた。