朝まで、グラデーション
『今野、今何してる? 会社の飲み会で終電逃しちゃって、まだ駅の近くに住んでいて、もしも暇なら今日泊めてほしいです』

 今野との関係は、このまま離れていって縁が途切れてしまうのかなと思っていた。
 久しぶりに勇気をだして送ったLINEが、私の人生を再び鮮やかにした。

 終電乗れなくて、良かったな――。



 暑い日の夜、会社の飲み会で終電を逃した。居酒屋で時間を気にしながら職場の人たちと会話をしていたけれど、なかなか抜け出せなくて。解散後に間に合うかもと居酒屋から出ると駅まで急いだ。けれど、駅のホームに着いた瞬間に電車が出発してしまった。

 私以外には誰もいない。ホームに響く電車の遠ざかる音と、静まり返った夜の空気。急に心細く感じてきた。

 呆然としていると駅の近隣に住んでいるひとりの男が頭に浮かんでくる。

――あわよくば、また泊めてもらおうかな?

久しぶりにLINEを送った相手は、高校時代に仲の良かった同級生の男、今野勇征(こんのゆうせい)だ。友達以上恋人未満な関係の、微妙な関係だった人。そして私にとっては、最初で最後の恋をしていた人。今も未練がゼロだとはいえない。高校卒業してからも連絡を少しだけとっていたけれど、二十八歳になった今は全くしていなかった。駅の近くのマンションに彼は今も住んでいる、と思う。多分。

 急に泊めて欲しいなんて、微妙だったかな?
 断られる可能性の方が高いかな? 

 もしかしたら今、彼女がいるかもしれないし誘うこと自体が間違っていたかも?

 もしも断られたら二十分ぐらい歩いた場所にあるネカフェで朝まで時間を潰したり、仮眠を取ればいい。あぁ、でも今日はヒールの高い靴だし、歩くのだるいかも。タクシーで行こうかな。

『家で映画みてた。駅まで迎えに行こうか?』

 断られることを想定してあれこれ考えていると返事がきた。気持ちがふわっと軽くなる。と、同時に久しぶりに会うからか、緊張もしてきた。

『よろしくお願いします』
『了解!』

 ベンチに座りながら瞬く星空を眺めていたら、バイクのエンジン音が徐々に近づいてきた。やがて姿も見えてきて、バイクを停めると今野は黒いヘルメットを脱ぎニカッと笑顔を見せてきた。

「美里(みさと)、久しぶりだな」
「ね、久しぶり。二年ぶりぐらい?」
「そうだな」

 久しぶりに目と目が合う。頬がひきつり明らかに不自然だろうと思われる自分の笑顔。今野は私たちが出会った高校時代の時から一切変わってない。堂々としている雰囲気にサラサラな黒髪。とにかく凛としている佇まいだ。いや、でもよく見ると、大人になったのかな?

「ほい、ヘルメット」

 今野から白いヘルメットを受け取ると被りながらバイクの後ろに跨いだ。バイクは走り出す。二十歳辺りの頃はよくこうやって、しょっちゅう後ろに乗せてもらっていたな。夜の街を走るバイクの振動と、頬を撫でる涼しい風が、懐かしい記憶を呼び起こした。

私は、ぎゅっと強く今野の腰を掴んだ。久しぶりに今野に触れた。彼に触れた私の指先は、熱を帯びていた。

 向かい風も、心地よい――。



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