うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
テントの中に入ると、
甘えたような声でそう言われて、動揺してしまったけれど――
私は寝袋ごと、そっと身体を寄せた。肩と肩が、ぎりぎり触れるか触れないか。
呼吸が近くて、なんだか落ち着かない。
そんな沈黙のなかで、海龍くんがぽつりと呟いた。
「……ずっと思ってたんだ」
「え?」
「凪って、なんか……やわらかそうで、気持ちよさそう」
「な、何言ってるのっ!?」
「声とか。雰囲気とか。手とか。……ぜんぶ」
その言い方が、なんだか真剣すぎて、
私は照れて目を逸らした。
「ちょっと、変なこと言わないで」
「変じゃない。素直な感想だよ」
そして、少し間を置いて――
海龍くんが、急にパッと表情をゆるめて、少しだけ笑った。
「なあ、凪」
「……はい?」
「次はいつキャンプ行ける?」
「えっ?」
「……また行こうよ」
その言葉は、本当に楽しそうで、
まるで子どものように目がきらきらしていた。
社長の顔じゃない。
会社では見せない、素の海龍くん。
「……そうだね」
私も笑って、うなずいた。
「じゃあ、次は焚き火で肉焼こうな」
「肉?」
「肉。あと、焚き火でマシュマロもやってみたい」
「子どもみたい」
「いいだろ。俺、初心者なんだから」
二人で笑い合って、
テントのなかに、静かな温もりが満ちていく。
「……おやすみ、凪」
「おやすみなさい、海龍くん」
ちょっとだけ、彼の指が私の指先に触れた。
それだけで、眠れなくなりそうだった。