ringには紅茶を添えて
彼が指輪の裏側に刻印をしている。
私は紅茶を淹れている。最高級のイングリッシュ・ブレックファストだ。

指輪作りには大きく分けて2種類のやり方がある。型に金属を流し込む『鋳造(ちゅうぞう)』と、
金属を叩いて伸ばして作る『鍛造(たんぞう)」』。
うちのブライダル専門会社では、両方の技術がある職人たちと契約している。
うちの会社は結婚に関するすべての業務を取り仕切る。結婚式、披露宴、お見合いパーティからドレス・指輪作り、ハネムーンまで。
本社には精鋭10名のウェディング・プランナーがおり、子会社と連携して顧客の思い出作りのお手伝いをする。
彼は指輪職人。私は指輪のデザインを手がけ、ウェディングプランナーも兼任している。
彼は185センチメートルを超える長身で、肩幅も胸も広い。がっちりしている。
浅黒い面長の顔、細い眉と目、大きくて高い鼻、薄い唇を持つ。
ごつごつした働き者の手で0.001ミリ単位の繊細な作業をする。真の天才であり、職人。

先日、20代前半くらいのカップルが依頼をして行った。彼同席のもと、私はそのカップルの馴れ初めや思い出の品などを聞き、
その場でスケッチブックに色鉛筆でデザイン画を描いてみせた。
2時間の相談のあとデザイン画が出来上がった。披露宴パーティを行うローズガーデンのバラをイメージし、
プラチナのリングにバラの花をあしらう。真ん中に白くちいさなダイヤモンド。裏側にはふたりのイニシアルと結婚記念日を刻印する。ふたりとも、私の描いたデザインを気に入ったようだった。

私が描いたスケッチブックのデザインをパソコンに取り込んで、プラスチックで立体模型を作成したあと、
彼が実際にプラチナを叩いて伸ばして円にし、指輪を作る。
ここは東京浅草橋にあるアトリエ。隣はウェディングドレス工房だ。
指輪を作る一式がそろっている。丸い作業台、ハンマー、ペンチ、金属を伸ばすためのローラー、
大小様々な形のヤスリ、金属製の物差し、
刻印のためのアタッチメント、ノートパソコン、エトセトラ、エトセトラ。
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