ringには紅茶を添えて
アルファベットの書かれたアタッチメントをハンマーに取りつけ、
丁寧に一文字ずつ文字を刻む。最終段階なので神経を使う。
彼は口を引き結んで手元に神経を集中させている。指輪の作業はすべてひとつのミスも許されないが、
最終段階に入ったからこその独特の緊張感が作業場に漂っていた。

私は作業場の隣にあるキチネットのテーブルで紅茶を飲んでいた。
このキチネットは指輪の作業場とドレス作りの工房の間にあって、食事をしたりお茶を飲んで一息ついたりするための場所だ。
彼はドレス作りを担当する職人ほど仕事に没入するタイプではないが、指輪作りは鍛造を一度はじめたら一定時間拘束される。
私はデザイン画を描く以外に彼のサポートも担当していて、彼が指輪を作っている間、食事や飲み物をここに運ぶ。

彼の作業は緊張感を伴うが、私はここでむしろリラックスして過ごしている。
デザイン画を描く以外に絵を描いてみたり、お茶を飲んだり、本社での業務の息抜きにここに来たりもする。
作業をする彼の凛々しい顔を遠目に見るのが好きだ。下唇をわずかに噛む真剣な表情を見ると癒されるのが不思議。彼は私の淹れる紅茶のにおいで癒されると言ってくれる。私が淹れるから良いのだと。(本当かな)

「出来た」
2時間後、
彼がちいさくつぶやいた。冷静な顔に達成感をまとった熱がにじむ。

「おめでとう」
「ありがとう」
彼は指輪を天井の蛍光灯の光にかざして出来上がりを確かめている。刻印をしたあとバフ(布製の研磨輪。研磨剤をつけて使う)をかけて全体を磨き、
つやつやのプラチナリングが出来上がった。

「模型とまったく同じだね」
「同じでなければ困るだろう」
私も綿の手袋を填め、手に取ってその指輪の形とデザインを確かめる。バラのモチーフも真ん中のダイヤモンドも、そして裏の刻印も完璧だ。
最後にフランネルの布で磨いてリングケースにおさめる。このリングケースも彼の手作りで、依頼主の希望でサーモンピンクのハート型のビロードの箱だった。

「お茶飲む?」
「あぁ、いつもの」
「了解」
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