もう女じゃないなんて、言わせない
「悪い、ちょっと遅れた。」

「気にしないで。私もさっき来たところ。」

彼が手を挙げて店員を呼び、ビールと簡単なつまみを注文する。

その横顔を、私は横目でこっそり見た。

整った顔立ち。年相応の落ち着きと、どこか少年っぽさの残る笑み。

――この人が、あと少しだけ踏み込んできてくれていたら。

そんな"もしも"を思う自分が、少し情けなくも思える。

「優香、最近どうよ。」

グラスを手にして、東條が自然に訊く。

私は笑ってごまかすように言った。

「まあまあ。仕事も人間関係も、特に波風はない感じ。」

「そっか。じゃあ……恋愛は?」

一瞬、時が止まった気がした。

冗談混じりの軽いトーン。

だけど、その問いは、私の一番触れられたくないところを突いてきた。

東條が何気なくそう聞いた瞬間、私は少しだけ笑って肩をすくめた。

「相変わらず、カスカスよ。出会いも少なくなったし。」
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