悪に染まる予定だった美少年王子の健康と正義を、お守りしたい。【一話だけコンテスト参加作品です】
第1話☆。.:*・゜
『そんなに気にする事はないわ。人間だもの、そんな日もある』
『そうそう、優しいママだからお子さんはきっとママのこと大好きよ』
真夜中。六歳の娘、真凜を寝かしつけた後、私はいつも通り子育て掲示板に書き込みをした。今日は朝からイライラしちゃって、いつもよりも真凜に冷たくした気がして、気持ちが落ち込んでいることを書き込んだ。些細な悩みでも先輩お母様たちが明るく励ましてくれて、相談する場所のなかった新人ママの私の心は救われていた。
『明るい気持ちになってきました! ありがとうございました』
『また何かあったらいいなさい』
『そうそう、こないだ文句言ってきた義母の件は大丈夫なの?』
『はい、アドバイスを実行したらなんとなくですが、解決しました』
『良かったわ。今度お祝いパーティーしましょう。ジャンプしてそっちにいくわ』
『私も鍋持って行くわ!』
『私はデザート持って行くわ』
『私は可愛いお皿を買ったから食器任せて』
『私は……』
――お母様軍団、強い。
『ありがとうございます! もう寝ます。おやすみなさい』
完全には心のモヤモヤは消えなかったけれど、半分以上は消えてくれた気がする。
私はそっと隣で寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている真凜の頭を撫でると温かい手を握り、眠った。
*
朝目覚めると、目を閉じていても感じるぐらいに辺りを纏う空気が違うのを感じた。布団の感触も部屋の香りも、そして近くから騒がしい声もする。
目を開けると、なんと、家の寝室ではない場所にいた。勢いよく立ち上がると、クラっとしながら大きな窓から外を見る。
なんと、訓練をしている騎士達がいた。
「な、何これ……」
「ママ、どうしたの?」
しばらく唖然としていると、後ろから真凜の声がした。振り向くと、黒髪だったはずの真凜の髪が金色のクルクルヘアーになっていた。しかも少し成長している気もする。
「えっ、ママ、髪の毛いつもと違う……」
目を見開いた真凜の言葉を聞き、窓にうっすらと映る自分の姿を確認してみた。映った自分の姿を見て驚く。なぜなら、私も茶色だった髪の色が、金色の髪になっていたからだ。
「な、何これ……」
ふたりで不思議がっていると「ユーリア、マーリン、起きてる? もう仕事の時間だよ」とドアの向こう側から声がした。ドアを開けると「あら、まだ着替えてないの? さっさと着替えなさい」と、メイド姿のお婆さんに怪訝な顔をされながら言われた。
とりあえずふたりは着替え部屋から出て、指示された通りに朝食を運ぶことになった。
そして運んだ先にはなんと、最近読んでいた小説に出てきた〝世界を牛耳る悪のウィリアム〟の面影がびっしり詰まっている美少年が上座の席にいた。じっと見つめていると「なんだ?」と言いながら微笑んできた。
――ウィリアムではない?
ウィリアムは小説の中では、こんなに純粋な笑顔を見せない。唯一小説で笑顔を見せたシーンは左の口角を上げただけの、含みのありすぎる笑顔。だけど、今目の前にいるのは、完全に小説の挿絵で描かれていたウィリアムのようだ。
「一緒に遊びたいのか?」と、再びウィリアムらしき美少年に問われ、どう返したら良いのか分からず、とりあえず頷いてしまった。
「じゃあ、食事を終えたら遊ぼうか」
「ウィリアム第二王子、それはいけません。そんな……王子がメイドと遊ぶなど。今日は、一日中お勉強でございます!」と執事のようなおじいさんに注意され、彼は一瞬落ち込んだ表情を見せたものの、すぐに笑顔になり「分かった」と頷いた。
私は王子から離れ部屋を出て、メイドの仕事をやりながら王子について考えた。
異世界ファンタジーオタクな私には分かる。これは、小説の世界。私たちは悪役であるウィリアム王子のところへ来た。すなわち、私がするべきことは――?
それにしてもさっきの場面、うちの子だったら、勉強嫌だ遊ぶってしばらく言い続けそう。王子は本当は遊びたいのでは?
――はっ! そういえば真凜は?
うろちょろすると部屋の掃除をしていた真凜を見つけた。
「真凜、大丈夫?」
静かな声で真凜に尋ねると「ママ、なんかメイドの格好可愛いし、楽しい~」とウキウキしていた。
ある程度の仕事も終わり休憩時間になった。部屋に戻ると、持ち物を確認しようと部屋を漁る。
鏡やくしなど、身なりを整えるものがある。机があったから引き出しを開けてみる。
な、なんと今まで使っていたスマホと、今いるここの世界の小説があった。あっちの元いた世界と繋がっているのかなと考え、スマホを覗く。確認できたのは、今まで利用していた子育て掲示板だけと繋がっていたことだけだった。
――まさかの展開!
私が読む漫画や小説の中で、異世界に潜り込んだパターンで多いのは、主人公が潜り込んだことにより、悪役が世の中の正義になるパターンが多かったな。
オタク知識を活かし推理をすると『私がこの世界に来た理由は、ウィリアム王子が悪役になるのを阻止するため』に辿り着いた。今のこれは現実だけど、ゲームのような。なんだかワクワクしてくる。
掲示板とも繋がったままだし、先輩お母様に意見を求めながら自分でも考え、ウィリアム王子を悪に染まらないようにお守りしよう!
小説の中ではたしか、ウィリアム王子の環境が厳しすぎて、継母から虐められるようになって。さらに、あんまり健康ではなかった気がする。
数々の物語の中でも、悪役は元から悪ではなく、むしろ優しい正義をつらぬきながら途中まで生きてきたパターンも多い。
――ウィリアム王子はまだ間に合う!
私はウィリアム王子の勉強部屋を近くにいたメイドに聞くと、部屋に向かった!
勢いよく部屋を開けると「どうした?」と、勉強中の王子が光溢れる笑顔で私を見つめてきた。
守りたい。
絶対にお守りしたい。
尊い、光属性のウィリアム王子を――。
この時はまだ知らなかった。
やがて、ウィリアム王子から溺愛されることになるとは……。
☆。.:*・゜
『そうそう、優しいママだからお子さんはきっとママのこと大好きよ』
真夜中。六歳の娘、真凜を寝かしつけた後、私はいつも通り子育て掲示板に書き込みをした。今日は朝からイライラしちゃって、いつもよりも真凜に冷たくした気がして、気持ちが落ち込んでいることを書き込んだ。些細な悩みでも先輩お母様たちが明るく励ましてくれて、相談する場所のなかった新人ママの私の心は救われていた。
『明るい気持ちになってきました! ありがとうございました』
『また何かあったらいいなさい』
『そうそう、こないだ文句言ってきた義母の件は大丈夫なの?』
『はい、アドバイスを実行したらなんとなくですが、解決しました』
『良かったわ。今度お祝いパーティーしましょう。ジャンプしてそっちにいくわ』
『私も鍋持って行くわ!』
『私はデザート持って行くわ』
『私は可愛いお皿を買ったから食器任せて』
『私は……』
――お母様軍団、強い。
『ありがとうございます! もう寝ます。おやすみなさい』
完全には心のモヤモヤは消えなかったけれど、半分以上は消えてくれた気がする。
私はそっと隣で寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている真凜の頭を撫でると温かい手を握り、眠った。
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朝目覚めると、目を閉じていても感じるぐらいに辺りを纏う空気が違うのを感じた。布団の感触も部屋の香りも、そして近くから騒がしい声もする。
目を開けると、なんと、家の寝室ではない場所にいた。勢いよく立ち上がると、クラっとしながら大きな窓から外を見る。
なんと、訓練をしている騎士達がいた。
「な、何これ……」
「ママ、どうしたの?」
しばらく唖然としていると、後ろから真凜の声がした。振り向くと、黒髪だったはずの真凜の髪が金色のクルクルヘアーになっていた。しかも少し成長している気もする。
「えっ、ママ、髪の毛いつもと違う……」
目を見開いた真凜の言葉を聞き、窓にうっすらと映る自分の姿を確認してみた。映った自分の姿を見て驚く。なぜなら、私も茶色だった髪の色が、金色の髪になっていたからだ。
「な、何これ……」
ふたりで不思議がっていると「ユーリア、マーリン、起きてる? もう仕事の時間だよ」とドアの向こう側から声がした。ドアを開けると「あら、まだ着替えてないの? さっさと着替えなさい」と、メイド姿のお婆さんに怪訝な顔をされながら言われた。
とりあえずふたりは着替え部屋から出て、指示された通りに朝食を運ぶことになった。
そして運んだ先にはなんと、最近読んでいた小説に出てきた〝世界を牛耳る悪のウィリアム〟の面影がびっしり詰まっている美少年が上座の席にいた。じっと見つめていると「なんだ?」と言いながら微笑んできた。
――ウィリアムではない?
ウィリアムは小説の中では、こんなに純粋な笑顔を見せない。唯一小説で笑顔を見せたシーンは左の口角を上げただけの、含みのありすぎる笑顔。だけど、今目の前にいるのは、完全に小説の挿絵で描かれていたウィリアムのようだ。
「一緒に遊びたいのか?」と、再びウィリアムらしき美少年に問われ、どう返したら良いのか分からず、とりあえず頷いてしまった。
「じゃあ、食事を終えたら遊ぼうか」
「ウィリアム第二王子、それはいけません。そんな……王子がメイドと遊ぶなど。今日は、一日中お勉強でございます!」と執事のようなおじいさんに注意され、彼は一瞬落ち込んだ表情を見せたものの、すぐに笑顔になり「分かった」と頷いた。
私は王子から離れ部屋を出て、メイドの仕事をやりながら王子について考えた。
異世界ファンタジーオタクな私には分かる。これは、小説の世界。私たちは悪役であるウィリアム王子のところへ来た。すなわち、私がするべきことは――?
それにしてもさっきの場面、うちの子だったら、勉強嫌だ遊ぶってしばらく言い続けそう。王子は本当は遊びたいのでは?
――はっ! そういえば真凜は?
うろちょろすると部屋の掃除をしていた真凜を見つけた。
「真凜、大丈夫?」
静かな声で真凜に尋ねると「ママ、なんかメイドの格好可愛いし、楽しい~」とウキウキしていた。
ある程度の仕事も終わり休憩時間になった。部屋に戻ると、持ち物を確認しようと部屋を漁る。
鏡やくしなど、身なりを整えるものがある。机があったから引き出しを開けてみる。
な、なんと今まで使っていたスマホと、今いるここの世界の小説があった。あっちの元いた世界と繋がっているのかなと考え、スマホを覗く。確認できたのは、今まで利用していた子育て掲示板だけと繋がっていたことだけだった。
――まさかの展開!
私が読む漫画や小説の中で、異世界に潜り込んだパターンで多いのは、主人公が潜り込んだことにより、悪役が世の中の正義になるパターンが多かったな。
オタク知識を活かし推理をすると『私がこの世界に来た理由は、ウィリアム王子が悪役になるのを阻止するため』に辿り着いた。今のこれは現実だけど、ゲームのような。なんだかワクワクしてくる。
掲示板とも繋がったままだし、先輩お母様に意見を求めながら自分でも考え、ウィリアム王子を悪に染まらないようにお守りしよう!
小説の中ではたしか、ウィリアム王子の環境が厳しすぎて、継母から虐められるようになって。さらに、あんまり健康ではなかった気がする。
数々の物語の中でも、悪役は元から悪ではなく、むしろ優しい正義をつらぬきながら途中まで生きてきたパターンも多い。
――ウィリアム王子はまだ間に合う!
私はウィリアム王子の勉強部屋を近くにいたメイドに聞くと、部屋に向かった!
勢いよく部屋を開けると「どうした?」と、勉強中の王子が光溢れる笑顔で私を見つめてきた。
守りたい。
絶対にお守りしたい。
尊い、光属性のウィリアム王子を――。
この時はまだ知らなかった。
やがて、ウィリアム王子から溺愛されることになるとは……。
☆。.:*・゜


