逃亡中の王女が敵国の皇太子に娶られた件
 だが瞬きをすると、景色が変わっていた。

 暗い森林の中にいたはずなのに、だだっ広い草原のど真ん中にいる。

 ──もしかして今の浮遊感は……瞬間移動の……?

 そんなもの使った覚えはないし、そもそも行く当てがないのだから使うという選択肢がなかった。じゃあ、どうして。
 
「どこを見ている? こっちだ」

 声の方向を振り返ると一人の青年が立っていた。新たな追っ手かもしれない。だがそれよりも青年の後ろにそびえたつ城に釘付けになった。
 見覚えがあったからだ。

 ──確か昔、辞典に……。

 次に、青年が羽織っているマントに目がいった。

「先ほど森が揺れたので呼び寄せてみれば、女が一人か」

 彼はそう言いながら近づいてくる。

 ──嘘…………。

 科学のサーティス王国、魔術のグレイ帝国。
 正反対の思想をもつ二国は隣接しており、長年争いいがみ合ってきた。
 これは誰もが知る常識だ。
 そして両国にはそれぞれ王族または皇族のみが身に着けられる禁色が存在した。サーティス王国は蒼色、そしてグレイ帝国は……──。

「答えろ女。お前は何者だ。そしてどこの国から忍び込んだ」

 首に剣を突き付けられた。
 風にあおられマントがひらりと舞う。雲から顔を出した月が、それを照らした。深みのある綺麗な紅色。
 それこそグレイ帝国の皇族である証だ。

「おい聞こえているのか」

 首に剣がひやりと触れたタイミングで我に返った。
 彼の質問に答えなかったら死ぬ。答えても、死ぬ。
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