「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています
「せーのっ、で――お互い片方ずつ」

カイル殿下がそう言うと、私の頬に自然と笑みが浮かんだ。

「……覚えていて、くださったんですね」

「忘れるわけないよ。あの頃、君と過ごした時間は……」

言いかけたその声が、そっと消えた。

けれど言葉の先を聞かなくても、私には充分すぎるほど伝わってきた。

私の中に残っていた幼い記憶が、今こうして、温かく現在と繋がっていく。

庭を歩いていると、カイル殿下がふと足を止め、大きな木の幹に手をかけた。

「……まだあるんだね、この木。」

その声は、どこか懐かしさを帯びていた。

「はい。母のお気に入りなんです。ずっと、大切にしています。」

風に揺れる枝葉の音が、二人の間を柔らかく包む。

カイル殿下は木の根元に咲いていた小さな白い花に目を留めると、そっとひとつ摘み取った。

「……あの頃も、こうして君に花を渡したよね。」

「はい……覚えています。」
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