「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています
だが、背中越しに声が飛んできた。

「お待ちになって。」

背筋がひやりとした。

恐る恐る振り返ると、すでに彼女は私のすぐ後ろにいた。

「どんな手段を使ったのかしら?」

その口調は柔らかい。しかし、その奥に隠された棘は鋭い。

私が公爵令嬢であるという事実を踏まえた、表面上の礼儀を保った皮肉だ。

「もしかして、私にユリウス様を奪われたから?」

その声は優雅に微笑んでいるようで、まるで毒のように刺さる。

周囲の令嬢たちが息をのんだのが分かった。

(ユリウス様を奪ったのは……あなたの方じゃない)

そう心で呟きながら、私は静かに言葉を選ぶ。

「ご心配なく、エヴァ嬢。私には、他人のものを欲しがる趣味はございませんわ。」

「まぁ、そう……。でも不思議ね。ユリウス様に捨てられた貴女が、今や皇子の婚約者だなんて。どんな魔法をお使いになったのかしら?」

「魔法ではありません。誠実に生きてきた結果、です。」
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