「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています
でもこれは過去の名残、ただの幻影だと自分に言い聞かせる。

ホールの中央へと進み、曲が流れ始めた。

気づけば、私たちのステップは不思議と合っていた。

まるで昨日まで踊っていたかのように、自然に、なめらかに。

「覚えてるんだ。君とよく練習した、このワルツ。」

ユリウスがぽつりと呟く。

「ええ。忘れられるわけないじゃない。……一度は、あなたの婚約者だったのだから。」

私の声は静かだった。

でもその一言に、彼の手にわずかな力がこもるのを感じた。

「……セレナ。僕は、君を失ってから気づいたんだ」

「何を?」

「女は、容姿だけでは測り切れない。君の中の淑やかさに……どうして僕は、気づかなかったのだろう」

ユリウスの声が、静かに、そして悔やむように響いた。

そして彼は、私の腰をグッと引き寄せる。

その突然の距離に息が止まった。
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