√スターダストtoらぶ
「やっほーい!明日から夏休みだー!」

「ねえねえ、花火大会誰誘う?」

「えー、やっぱ2組の…」


クラス中が明日からの夏休みに思いを馳せている中、そそくさと荷物をまとめ、誰とも会話をせずに帰ろうとした、その時。


「高橋さん、ちょっといいですか?」

「えっ?ちょ、ちょっと…!」


わたしの返事も聞かず、彼はわたしの腕をがっしりと掴みスタスタと歩き出してしまった。

すれ違う人々から狂気の目を向けられながら、半ば引き摺られるようにしてやってきたのは人気のない部室棟の一室だった。

あ、そっか。

確かこの子…。


「無理矢理連れてきた形になってすみません。でもここなら…今なら誰もいないから、話が出来ると思って…」

「あ、うん。それで、話って?」


分かる。

分かるよ、この空気感。

この感じ、久しぶりだよ。

わたしが捨てて来たものの欠片がちらっとこちらを覗いてくる。

でも、

でも…ね。

ダメ、なんだよ。

…断ろう。

今ならまだ傷は浅くて済む。

わたしは顔を上げ、口を開いた。


「あの…」

「僕、高橋さんのことが好きです。一眼見た時からずっと、ずっと好きでした。だから…僕と付き合って下さい…!」


わたしの声を遮るようにして走り出した想いは確かにわたしの耳に届いてしまった。

あぁ、なんで…。

こんなにも努力したのに、

また恋されてしまったの…?

世の中の女性たちを敵に回しているのは分かってる。

想われてるなら応えてあげなよ。

好きになってもらえるだけで奇跡なんだよ。

そう、どこぞの誰かさんに言われてる気がする。

でも、わたしは…

わたしは、この想いを受け取ることはできないんだ。

それは、こんなわたしのせい。

どうしようもない、このクズ性質のせい。

わたしを好きになる人はみんな…

クズ。

そう高橋愛舞市場で決まってる。

だから、振る。

振るしか、ない。


「あの…あの、ね」

「返事はまだ要りません。友達からでも結構です。そもそも僕はこんななのでお話さえまともにしたこともありませんし。だから、まずは一緒に花火大会に行きましょう!」

「は、花火…?」

「はい。詳細はまた後日連絡します」

「え、ちょっと待って。わたし行くなんて一言も…」


なんて言う蚊の鳴くようなわたしの声なんて廊下から響く上履きのドタバタ音にかき消されて届かなかった。

気がついた時にはもう他の部員も来ていて、わたしは猛ダッシュでその場を後にするしかなかったのだった。


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