√スターダストtoらぶ
「…どうした?」


優しくて甘い声が聞こえる。

今この瞬間、わたしにだけ注がれている。

ぽっかり空いた心の穴に。

トクトクと音を立てて。


「ゲホッゲホッ。病人に近づくとうつるよ」


約束通り、愁真さんは何もしてこない。

抱きしめ返すこともしない。

それどころか逆方向を案内してくれてる。

そっちに歩いて行く。

それが正しい。

朝雪くんのお陰で日向の道を歩けるってやっと気づけた。

だけど、なんで?

どうして?

わたしは立ち止まって動けない。

今ここにいるこの人に縋ることでしか、

呼吸が出来ない。

浅い呼吸を繰り返す。

闇に追いつかれないように目を閉じて。

奥底の激しい波音に耳を塞いで。

傷口が広がらないように。

ただじっと耐えて。

耐え、て…。


「行かないで、って言ったのは…俺だから。何かあっても何をしても、俺のせいにすれば良い」


そう愁真さんが言ってくれて、

わたしはもう止められなくなった。

傷口が開いてそこから溢れる汚い感情の海に飲み込まれた。

波間から思いが溢れる。


「怖い。男の人が怖くて怖くて仕方なくて。嫌いで、嫌いで、大っ嫌いで。誰もわたしを見てくれない。ちゃんと見て…見てくれ、ない。だから、本当はここから早く出ていきたい。そう思ってる、はず、なの…に」

「うん」

「行かないでってその言葉が怖いのに…嬉しい。おかしいんです、わたし」

「…おかしくなんてないよ。俺もそう思う時あるから。相反する感情なんて持ってて当たり前。それだけ選択肢があってどれもきっと…間違いじゃないと思う」


愁真さんの胸に埋めていた顔を上げる。

わたしのせいでずっと倒れたままだった愁真さんが体を起こす。

視線が交わる。

トクンと胸が鳴って

危険な熱が巡っているのを嫌でも感じてしまう。

沈黙が続いてやがて愁真さんが口を切った。


「俺、昔から顔だけはいいの。だから色んな蝶が蜜を吸うのに寄ってくる。そんな蝶たちをあやしながら、小さい時に一目惚れした女の子を捜してた。その子に触れられた手の感触とか熱とか忘れられなくて。なんとなく分かるんだよ、手を握れば。
けどさ、たとえどんな理由があったとしてもそうやって無闇に手を出して傷つけてきたことには変わりない。嫌われても軽蔑されても仕方のない、正真正銘のクズだよ俺は。
そんな自分自身にも嫌気がさしてた。体裁を整えるのに必死で愛想笑いを繰り返して。反吐が出るくらい自分が大っ嫌いで。
そんな時…キミに逢った。転んだキミに俺が手を差し出して握り返してくれたあの時、同じものを感じた。
だからキミにもう一度会いたかった。何度も会えるもんだからほんと…どんどん止められなくなって。傷つけてるの分かっててもそばにいたくてあそこでバイトも始めた。
でも、それも終わり。今日ここでキミと俺の関係は終わる。何もしてないから何もなかったことになる。それで、終わり。そうすればいい。全部俺が悪いってことでいいから」

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