キラくんの愛は、とどまることを知らない

プロローグ



「───二千万! お前の父親が遺した借金の総額だ。闇金に親戚、友人、あちこちから借りていた」

 その途方もない金額に、目眩がしそうになった。

 月の手取りは18万円弱の、しがない準公務員の私。
 自分の奨学金も未だに返し終えていないというのに、酒びたりで勝手に死んだ父親の借金など、返せるはずはない。

「……相続放棄をします」

 大した価値はないが、この家も土地も、何もかも父親の名義だ。相続放棄をするという事は、借金だけと言うわけにはいかないため、全て手放し出ていかなければならない。

「その必要はない。すでに俺が払っておいた」

「……え?」

 聞き間違いだろうか……今、なんと?

 そもそもこの人は一体どこの誰なのか。仕立ての良さそうなスーツに高そうな時計をつけて、靴下までなんだか高級そうに見える。

 この男は、父親の火葬が済んで帰宅したら、何故か家の前にいたのだ。そしてそのまま、当たり前のように家の中に上がり込んだのである。
 状況から考えたら、一番あり得るのは借金の取り立てにきたヤクザか何かだろうと思うのだが……

「……払っておいた? 私の父の借金を、ですか?」

「そうだ」

「……貴方は父のお知り合いか何かですか?」

 知り合い程度で二千万円もの借金を肩代わりするはずはない事はわかっているが、今は考えている余裕がない。

「父の……お知り合い? 俺がか?」

「……はい……?」

 逆に疑問形で返されてしまった。さて、どうしたものか……

「……まさかっお前───っ!」

 男はその整った顔をほんの一瞬、歪ませた。

「……俺は稀羅(キラ)だ」

「吉良、さん……偶然ですね───あ、もしかして、親戚ですか?」

 私も吉良(きら)なんです。

「───っ! 稀羅(キラ)、だ!」
 
 ───……わかりましたよ、貴方が吉良(きら)さんだと言う事は。

 語尾を強めて、再度自分の姓を名乗るその男は、何か言いたげだが、親戚ではないのだろうか。

「……───っお前の父親の借金、すなわちお前の借金を俺が代わりに払ったんだ。つまり、今日からお前は債務者であり、俺は債権者だ───わかったか?」

「……わかりません」

 家と土地を失っても、私は借金を含め、その一切を放棄するつもりでいた───

 頼んでもいないのに、知らぬ間に勝手に肩代わりしたくせに、何を馬鹿な事を言っているのやら。
 こんな意味のわからない男のモノ(・・)になどなりたくはない……

 しかし───……


相馬(そうま)!」

「はい」

「こいつを連れて行け!」

「はい」

「はぇ? ……ぇ?! 何っ?! ソウマって誰ですか?!」


 どこからともなく現れた男性に、私は連れて行かれたのだった。

 ───……どこに?
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